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斉藤は、ふう。と小さな溜息をついた。
「適合手術なんて嘘ばっかりって聞くわ。事故も多いし、手術をしても検査に落ちるって……」
「怪しい商法が一気にはやった、って聞きました」
「そうよ……適合手術、サプリメント、違法な商売……」
彼女は風ではためく裾を上品に押さえながら悲しそうにつぶやく。
「私の友達も、適合手術で失敗して、命は助かったけれどもう二度と口をきくことができないの」
適合検査に落ちた人々は、狂ったように悲しんだ。怒った。
それにつけ込んだ人々が、怪しい薬や手術を売り出した、と聞く。
しかし海側町は、忘れられた土地だ。悲しみは、ここまで聞こえてこない。
斉藤はしばらく口を閉ざしていたが、やがて亜美を気遣うように優しい声音となった。
「島に……配給はきちんとくるの?」
「ええ。週に一回、きちんと届きます。飢えて困るってことはないですよ。井戸はもう涸れたので、水はもう出ませんけど……雨水を再生する機械を今、実験的に動かしてます。そうじゃなくても、飲料水と塩と簡単な食事はチケットがなくても全員に配給されますし。チケットを使うのはほんとう、贅沢品くらいなもので。案外、のんびり暮らしてます」
忘れられた土地でも、死ぬことはない。それは配給チケットと呼ばれる、チケットのおかげだ。
地球に残らざるを得なかった人々には月に一回チケットが配られる。もちろん最小限なので、残りは働いて手に入れるか、物々交換になるのだが。
週に一度、島には食べ物や水が届けられる。
そこでチケットを使って、食べ物と交換する。
どこかへ食べに行くときも、お金の代わりに使うのはチケットだ。
もう、この地区では金銭というものは何の意味も持たない。
こんなチケット制度、ひどい混乱になる。と最初はひどく危惧されたらしい。実際、ひどい混乱となった場所もあると聞く。
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