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「やっぱり焼き立てっていいですよね」
悟郎の呑気な声を聞いて、亜美は慌てて目をそらす。
その隙に彼は焼き立てのパンを大きな白い皿に盛って、冷蔵庫から取り出したきれいなものを、皿の上に取り分ける。
「今日のモーニングは?」
「厚切りバタートーストと手作りのジャムと、ヨーグルトです!」
悟郎は宝物を披露するかのように目を輝かせて、カウンター越しに皿を差し出してきた。
大きな皿の上には、驚くほど分厚い食パンのトーストと、ルビーみたいなジャムの小皿、その横には真っ白なヨーグルトが泳ぐスープ皿。
パンの上には、白いバターがたっぷり塗られて、パンは黄金色に輝いている。なんてきれいで、なんて美味しそうなんだろう……亜美は溜息をつく。
「あーもう、久しぶりだなあ。この厚いの」
亜美は感動に震えるように呟くと、鞄から小さなメモ帳とペンを取り出す。そしてサラサラと、モーニングの一皿を紙の中に描き出した。
描くといってもまるで子どもの落書きだ。丸を描いて、パンの四角に苺を描いた小さな小皿。
カウンター越しに覗き込み、悟郎が苦笑する。
「亜美さん、癖ですね」
「何が?」
「絵を描くの。普通、写真とかじゃないですか?」
絵を描くのはほんの十秒くらいのこと。亜美は食事が冷める前にさっさとペンの蓋をして、メモ帳を鞄に突っ込む。
「カメラもあるけど、古すぎて充電もできないし、フィルムとか記憶媒体とかも持ってないから再生もできないし。電気だって、いつ無くなるかわからないし……あとで見返せないカメラより、見返せる下手くそな絵の方がいいじゃない」
亜美が膨れるのをみて、悟郎は楽しそうに笑う。
「上手に描けてましたよ。パンがふっくら厚くて美味しそうなところとか」
「でしょ? そこはポイントだよね。こんなに厚いパン久々だもん」
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