始まりの島イチゴジャムトースト

6/21
前へ
/179ページ
次へ
 パンを噛みしめて幸せに浸る亜美の前で、悟郎は必死にラジオと格闘していた。 「最近はラジオ局も消えちゃって、政府が一局持っているのと、残りは個人発信でしょう。ちょっと前までインターネット回線も生きてたみたいだけど、最近は……」 「つながらなくなったねえ。都会じゃまだ繋がるんだろうけど……」 「今じゃラジオが復権ですもんね。歴史の教科書、そのままの生活ですよ。案外原始的な生活も、悪くはないですけど」  古いラジオは新しいものとは勝手が違う。小さな取っ手をかちゃかちゃと、回しては叩き、がーがーぴーぴーうるさいスピーカーをなでては揺らす。  やがて、その努力が実ったのかラジオがかすかな音をたてた。 『……』 「あ。つながった」 『2XXX年、こうして人々は……』  ラジオから聞こえてきたのは、静かな男の声だった。  二人は口を閉ざし、その声に耳を傾ける。  それは、この国の、星の、人間の、たった少しの間におきた、進化と退化の物語。  地球はどんどんと資源を失った。  だから誰もが、宇宙への進出を目論んだ。個人も、企業も、国も、何もかも。  つまりみんな、地球に飽きてしまった。外の世界に救いを求めたのだ。  その努力は多くの失敗と悲しみを重ねたが、やがて、人々は、宇宙で暮らす術を見つけだす。  それは、一人の宇宙飛行士が宇宙で見つけた、とある素材。  その素材を使うことで、宇宙技術はたった数年で一気に進み、20年も経たないうちに宇宙進出の夢は叶った。 『人々はこれを、飛行士の名を冠してクリタプロジェクトと呼び……』  ラジオは淡々と、言葉を連ねる。亜美は左手の薬指に収まった緩いリングを指でくるくると回した。 『人々は、宇宙へ、惑星へ、夢へ、飛び出していく……新天地での新しい世界へ。しかし』  ただし、この素材には難点もある。素材に適合する人間としない人間があるのだ。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加