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適合しない人間は、宇宙には飛び出せない。
つまり適合しなかった人間は、この資源の乏しい地球に取り残される。
それを尻目に、適合者は今日も毎日のように宇宙へ飛び出していく。
残された人々は、この資源のない土地で生きていくしかない。
資源は少なく、食べ物が配給システムにとなったのは数年前のこと。
騒ぎになったのは一瞬のことだ。
案外、この国の人々は辛抱強い。
今では、なんとなく……なんとなく、この終わっていく青い星で皆が呑気に生きている。
『非適合者の怨嗟の声は、政府や、飛行士にまで向けられ……』
亜美はきゅっと手のひらを強く握りしめる。
飲み込んだコーヒーの味は、薄く、苦かった。
「ね。やっぱり音楽に戻さない?」
「これ、昔に作られた宇宙移住反対プロジェクトの番組ですよね。ちょっと前まで耳にたこができるくらい聞きました。宇宙移住反対運動の人達が時々、番組ジャックして流すんですよね。困ったもんです」
悟郎はあきれ顔で呟くと、飽きたようにラジオを叩く。
と、今度は比較的調子よく、音楽のチャンネルにつながった。
「あ。つながった、つながった。もう暗い話はいやですよね」
悟郎は安堵したように、自分用にいれた紅茶をすする。
粉のミルクたっぷりに、お砂糖は三杯。びっくりするくらい甘い紅茶が彼の好みだった。
「……資源がないとか、地球はもう駄目だとか、いろいろ言われてるけど、実際のところ酷くはないですよね……これから悪くなるって言われて、もう数年経ったし……。このイチゴですけど、最近は宇宙移住を諦めた人が田舎に戻ってきて、土地を耕して農作物を作ってるんですよ。特に若い人が。だから新鮮な野菜も手に入るんです」
悟郎は目を細めて、店の玄関をみる。ガラス戸の向こうには、乾いた地面が見える。しかし、その向こうに緑色の畑の端っこが見えた。
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