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始まりの島イチゴジャムトースト
ラジオから掠れるような歌声が響いてくる。
去ってしまった恋人に切なく語りかける……甘い恨み言も混じっているような……そんな歌。
ずっと大昔に流行った曲だ。CMに使われて、ほんの少しだけ話題になった。
旋律と歌詞が奇跡のように混じり合う、そんな曲だ。
亜美は切ない歌声の向こうに重なる、静かなピアノの音に耳を傾け目を閉じる。
「あー。懐かしい曲。小学校の頃に聞いてたなあ。歌詞の意味、分かってないくせに好きだった。親にねだってカラオケにつれて行ってもらってさ……」
カウンター席の一番端。つるつるになった机の上を指先で撫でながら、亜美はうっとりと呟く。
「この歌うたったら、親から、もっと子どもらしい歌をうたえって怒られて……」
亜美は目を閉じて、唇をしっかり締めて息を止める。
そうすれば耳から入った音楽が、頭の中に広がって反響する、そんな気がする。
亜美は音楽に浸る瞬間が一番好きだった。耳から入った音楽が、行き場所をなくして頭の中に留まり続ける。そんな気がする。
「……あ。僕、亜美さんの年齢分かっちゃいました。きっと僕と同じくらいだ。でしょ?」
亜美の目の前、カウンターの向こう側で青年が一人、微笑みを浮かべる。
「それで、きっと亜美さん都会生まれだ。僕の町みたいな田舎には、カラオケ屋さんなんて今も昔もないんですよ」
青年は、ゆっくりとコップを磨きながら嬉しそうに笑う。
背は高く、腕も肩もがっしりとしていて、体の全体に筋肉が付いている。そのせいか、エプロンは似合わない。
(……腰に巻くタイプのエプロンの方が似合うのに)
と、亜美は常々思っている。
そんな体つきのくせに、顔は童顔気味で子犬のように人なつっこい。でも最近は少しだけ目の回りに小さな目皺が増えた。
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