トキツカイ

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トキツカイ

刻一刻と、時が過ぎていく。男に課せられた時間は、無慈悲に、しかし確実に刻まれていく。 問題は何も無かった。その年齢に見合う経験と、余りある実力を、彼は兼ね備えている。 元より寸分違わぬ体内時計を保持するも、眼前に用意した秒針に、より完璧な結果への渇望を伺わせた。 デジタルを敢えて廃し、慣れ親しんだアナログに時を刻ませるのは、彼なりのこだわりであろう。 必要な作業の全てを、神業と呼ぶに相応しい手際で完了した彼に残されたのは、ただ時が満ちるのを待つ事だけだ。 3分…4分…。 4分30秒…4分50秒…55秒…。 遂に5分が経過した、だが男は動かない。 額を伝う一筋の汗が、彼の緊張と、揺るがぬ信念を伺わせる。 唯一の懸念は…最初の選択肢が、果たして正しかったのか否か。 しかしその成否は神のみぞ知る所である。 5分30秒…31秒…32秒。 刹那、男の手が動いた。 流れる手捌きで深紅のラベルを剥がすと、金色に輝くスープを十分に満たした油揚げと、至上の豊潤さで白く滑らかに熟成された麺が、そこには有った。 「…きつねにして良かった…。」 彼の勝利は確定した。 夕飯はちゃんと作ろう。 彼は至福の時を過ごした後、固くそう誓った。
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