EXTRA 1.

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「じゃあライバル減るってことじゃん」 「でも音楽系に進学を希望してる生徒は、夏休みにコンクールにも出まくって、練習三昧で、ものすごく伸びてるんです」  綴は奏司が夏休みにコンクールに出ていたことを思い出した。絶賛の嵐だった『別れの曲』。 「想像もつかないくらい上達してる連中がいたりで、高校三年の最後の選抜試験は入れ替わりが凄いんだそうですよ、毎年」  他人事のように言いながら、奏司は赤いネクタイを取り出して首に掛けた。この色の方がしっくりくるなと綴は思ったが言わないでいた。  時計坂の音楽科に入学してからずっと、赤いネクタイを着け続けた奏司の記録は凄いのだろう。そう言えば定期演奏会の選抜もずっと首席だったと言っていた。多分奏司には『時計坂音楽科始まって以来』の称号がいくつも付いているはずだ。当の本人は何の興味も無さそうだが。 「まあ赤は俺の中で綴さんのイメージカラーなので、出会ってからは赤いネクタイも悪くないなって思ってましたけど」  奏司が慣れた手つきでネクタイを結ぶ。 「俺のイメージ、お前の中では赤なんだ?」 「はい」  強烈な程の『赤』だと奏司は思っている。他の色に混じっていても、一点あるだけで存在感の有る色、赤。どこにいても見つけられる、迷わないで選ぶことができる。綴の赤。
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