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「お前さ…」
「は、はい」
綴に声を掛けられて奏司は声が上擦った。やばいやばい、妄想が暴走するのがバレる所だった。
「学校は辞めさせられたりしねえのか?」
綴はまだ赤いネクタイを見ている。
「ああ…」
家を追い出されるほど両親に腹を立てられている。綴の中で奏司の両親はピアノを止めるなら学校も辞めてしまえと言い出してもおかしくない感じなのだろう。
「残念ながら学費は年度始めに一括納入なので、今更ですかね」
奏司が口元だけで笑って、自分の前髪を柔らかく触っている綴の指を眺めた。
「それに世間体があるし、本家に対する面子もあるから…卒業だけはさせるんじゃないですか?」
また他人事のように奏司の言葉。
奏司は自分のことには本当に執着がない。ピアノ有りきで存在を認められていたような環境にいたから仕方ないのかもしれないが、綴はそれが少し胸に痛かった。
今は自分のギタリストとしての存在意義が奏司を生かしているのだろうか?それはピアノと同じで苦しくないのだろうか?ぼんやり綴が考える。
それだけじゃないけど、な。
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