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1日悶々としているうちにチャイムが鳴った。今朝、ちゃんと聞けなかった、ピアノを貸してという理由について考えていたら、あっと言う間に1日の授業が終わった。今日はネクタイ選抜試験の2日目、俺は昨日終わって、結果はボロボロ。まあしょうがない、それが実力だ。そして今は音楽系以外の進学を考えていて一般科目を強化している。
伸びをしてゆっくり教科書を片付けていると、終業のベルから一分経たないうちに、俺の席に佑木くんがやって来た。と言うより飛んできた。
「帰ろう!杉山」
「は、はい!」
圧倒されて答える。佑木くんは俺の荷物をさっとまとめるとカバンに突っ込んだ。
え、そんなに?そんなに急ぐ?
いつも誰ともつるまない孤高の佑木奏司が、ピアノ専攻のド底辺を彷徨っている俺に『一緒に帰ろう』と声を掛けたことで周りはかなり騒ついている。
やばい、
優!越!感!
勇気を出して話しかけたのは昨日、佑木くんが選抜試験の練習をしていた時だった。サラッと流れる『超絶技巧練習曲、ラ・カンパネラ』、卒業したらもう佑木くんのピアノが聴けなくなると思った俺は意を決して練習室のドアを叩いた。周りには同じように佑木くんを観察する沢山の生徒が居たけど、行動に移さないと何も始まらない!それに、もし噂が本当なら、佑木くんはピアノを止めてしまうかもしれない。そうなったらもう、卒業しても、コンクールや演奏会で聴くことすら出来ない。
その決意と努力が身を結んだのか…今佑木くんと二人で帰路の電車に揺られている。
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