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「ごめん杉山、音聴いてていいかな?」
「え、うん、もちろんいいよ」
本当は色々聞きたいことがあったけど、むしろワイドショー顔負けなくらい質問責めにしたかったけど、もうイヤホンを取り出し始めている佑木くんにそれは言えなかった。
二駅目で席が一つ空いた。佑木くんは一旦周りを見回した。殆どが学生しか乗っていないことを確認すると、俺にジェスチャーで「どうぞ」と促した。あまりにも自然でスマートな振る舞いで、思わず俺はストンと席に着いてた。多分、お年寄りとか妊婦さんとか、座って欲しい人が乗っていないか確かめたのだろう。こういうのっていつもやってないと自然に出来ないはずだ。俺はそういうとこも凄いなあと思いながら、佑木くんを見上げた。
「背高いなあ…」
思わず漏れた声は発車のアナウンスに重なって消された。佑木くんは手摺りを掴んだままじっと音に聴き入っている。目を閉じて音を追っている。
やば、超かっこよくね?!
こういうシチュエーションで間近で見るのが始めてだからかもしれないけど、めっちゃイケメン!長身で、背筋が伸びてて、羨ましいほどかっこいい!
今更そう気付いて、何と無く前の席に目を遣ると、どこかの学校の女子が佑木くんを見ながら、何やらコソコソ話している。そっか、佑木くんはこの路線にはいつも乗らないもんね。そしてその女子高生たちの唇は、明らかに『かっこいい』と動いた。
分かる!分かるわそれ!
そしてやっぱり俺は何故か優越感。佑木くんはそんな俗な俺の思考に気づかず、音に入ったままだ。手摺りを掴んでいない方の指がパタパタと動いている。ラ・カンパネラの旋律。
結局佑木くんはウチの在る五駅先の駅に着くまで、ずっとイメトレをしていた。
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