42人が本棚に入れています
本棚に追加
「きゃああああ、本物イケメン!!!」
突然後ろで上がった黄色い声に、俺と佑木くんがドアを振り向いた。
「母さん、姉ちゃん!」
そこに立っていたのは俺の母と姉で、今朝佑木くんが訪ねて来たこと、そして二日間ピアノを貸すことを前もって連絡していた。
「ちょっと今まで連れてきた友達の群を抜いてるじゃない!」
お茶をテーブルに置きながら本人を前に目をハートにした女子二人が舞い上がっている。
…俺の他の友達に謝れ。とは思ったけど、実際群を抜いてカッコいいのは確かで、俺はとりあえず冷ややかな目線だけ送って黙っていた。
「すみません、突然変なお願いしちゃって」
「いいんですよ、何泊でもしてってくれて!」
丁寧に頭を下げた佑木くんに、ここぞとばかりに「頭を上げて」と言いながら肩を触る母。「そうよ気にしないで」と言いながら同じように背中にそっと触れる姉。
ハイエナか。
つか、姉ちゃん大学はどうしたよ、帰って来るのいつもより早いだろ!
「佑木奏司くんよね、コンクールなんかで拝聴してます」
母が嬉しそうに言った。
「あ、どうも…」
佑木くんが少し圧倒されたように苦笑した。
「もう最近じゃ我が子じゃなくて佑木くんを聴きに行ってると言っても過言じゃ無くて」
姉も嬉しそうに言う。うん、確かに過言ではない。でも『聴きに』じゃなく『愛でに』な。
「でも何で泊まりがけでうちに?」
あ。
俺が聞きたかったことをサラッと母が聞いた。
「ピアノなら多分佑木くんのおうちの方がいいの置いてあるでしょう?」
「………」
佑木くんは少し顔を伏せた。
「こ、壊れてるんだよ、佑木くんちのピアノ」
俺の口から咄嗟に出た言葉。
「佑木くんのうちにあるガッコと同じモデルのピアノ、調子悪いんだって!」
「ああ、そうなの」
母が頷く。
「でもうちの子と佑木くんが友達だったなんて…」
お盆を胸に抱き、感動したようにうっとりする母を前に、俺はチラリと佑木くんを見た。佑木くんは何も否定せず目線を返してくれた。
「ほらあ、練習の邪魔になるから二人とも出た出た!」
俺は母と姉を無理矢理外に押しやってドアを閉めた。
最初のコメントを投稿しよう!