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「その人は佑木くんにピアノ続けて欲しいの?」
佑木くんは首を振った。
「そうじゃないんだけど、今回は俺がそうしたいんだ」
「………」
「勝手な俺の意思で杉山にまで迷惑かけてごめん」
振り向いてぺこりと頭を下げた佑木くんに、俺はあわてて首を振る。
「いや!マジで頼ってくれて嬉しい!練習室でちょっと喋っただけなのに、俺のとこに来てくれて本当に!」
「…そのくらい、音楽科には本当の友達がいないんだなって、今回痛感した」
「あ…」
そういうことになるよね。昨日ちょっと話しただけのクラスメイトを頼るってことは。何となく二人で空笑いする。
「じゃあ佑木くんはこれから何をするの?」
家を出てまで選んだものは何なの?
「バンド」
「え?」
「ギター、弾くんだ」
ちょっと照れたように佑木くんが言った。
「マジで?!」
「意外過ぎる?」
「ううん、カッコいい!絶対カッコいい!」
俺は佑木くんがバンドでギターを弾いている所を想像した。想像だけでもうめちゃくちゃかっこいい。これ、母さんと姉ちゃんに言ったら発狂するわ。
「でもバンドってことは一人じゃないんだよね?」
俺の言葉に佑木くんが頷く。
「俺がボーカルの人の声に惚れて、やっと組んでもらえるようになったんだ」
目を閉じて息を吐いた佑木くんの表情は安堵した感じで、多分沢山の紆余曲折を経てたどり着いたんだろうなということは、彼の家柄のことを考えても容易に想像がついた。
「惚れ込んだ人と組めるなんて幸せだねえ」
佑木くんが俺を見て、ゆっくり頷いた。
「うん」
サラリと揺れる黒髪から覗く両の目が、とても幸せそうで、俺は「あれ?」ってなる。
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