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俺は思いついて交換条件を出した。佑木奏司の演奏なら、ギターの音も聴いてみたい。
「…いいよ、まだ下手だけど」
仕方ないといった感じで佑木くんは頷いた。でも嫌だと言う感じではない。
俺は部屋を出ていく時、佑木くんが買ったコンビニ袋を覗いた。固形の栄養食と、ペットボトルの水。
「あと宿泊条件として、ちゃんとうちの母さんが作ったご飯を食べてもらいます!」
俺はペットボトルだけテーブルに置くと、栄養食は回収した。多分徹夜で弾き続けるだろう、睡眠も取って欲しいけど、それはもう目をつむる。でもご飯だけはちゃんと食べてもらわないと。じゃなきゃいい演奏なんて出来ない。割と楽器を弾くって体力が必要なのだ。
「…分かった」
佑木くんが苦笑いした。俺も笑って返した。
「ありがとう、杉山」
部屋を出て行こうとした俺の背中に声が飛んできた。俺は自分の家に佑木奏司が居ることを、なぜか凄く嬉しく思った。だけどそれは『凄い演奏をする佑木奏司』じゃなくて、もっとシンプルな…。
「いいよ、友達じゃん」
否定されたら結構落ち込む、そう思って内心ドキドキしたけど、カッコつけて言ってみた。
佑木くんの『大事な人』には爪先程も及ばない存在だろうけど、でも、友達っていうのも、それなりに凄い大切な存在だと思う。
「うん」
佑木くんが頷いてくれたから、俺は報われた。
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