bonus track 3

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 佑木くんの身体が揺らめくように前へ傾いで、演奏が始まる。『ラ・カンパネラ』は弾く人よって入りから全然違うと俺は思っている。佑木くんはこれでもかというくらいゆっくり入る演奏で、その分一音一音が耳にゆっくり響いた。  今から始まる音という物語の序章を印象付けるように。聴く者がこれからの展開を待たずには居られないように。  佑木奏司が作る音の本のページをめくるのを、誰もが期待に満ちて待っているのだ。  綺麗な音…。  最初の数小節で釘づけになった。気に入った絵画を無心に見つめるように、周りが気にならなくなる。これが本当の意味で『引き込まれる』ということなのだろう。  誰かのために弾いている、ある意味勝負しに行っている佑木くんの演奏は、でもどこか優しくて、最初に練習室で聴いたのとは全然違う仕上がりになっていた。たった2日でこんなにも違う演奏を持ってくるなんて…。しかも誰にも師事していない。これは佑木奏司のラ・カンパネラだ。  音の波を泳いでいる、心地良い感覚。  美しい。  俺はいつの間にか涙を流していた。
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