bonus track 3

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「首席、佑木奏司」  呼ばれて佑木くんがホールのステージに上がる。今回は入れ替わりが激しかったピアノ専攻最上級生の最後の試験で、首席だけがいつもの人物。既に赤いネクタイをしている佑木くんには『ネクタイ贈呈式』はない。首席の証であるピンバッジだけが厳かに渡された。 「佑木くんなんか嬉しそう。初めて見たかも」  クラスメイトの女子がぽつりと呟いた。  本当に。  佑木くんはピンバッジを手に取ると愛しそうに微笑んだ。自分の試験より緊張していた俺も何だか安心して、心からの拍手を送る。佑木くんが顔を上げた。そして俺の方を向いて「ありがとう」と唇を動かした。前に居る生徒や先生が一斉に俺を振り向いた。  うわあ!  恥ずかしい!でも嬉しい!  俺は勇気を出して練習室をノックした自分を、今ほど褒めてやりたいと思ったことはなかった。
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