bonus track 3

4/6
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/88ページ
 結果発表後、佑木くんはそそくさとホールを後にした。途中先生たちに「本当にピアノでの進学をしないのか」と聞かれていたけど「しません」と笑って答えて、それ以上はもう聞かせない雰囲気で出て行った。  俺は佑木くんを追いかけて教室に戻った。佑木くんはソッコーで帰る準備をしていた。 「佑木くん!」  俺が呼びかけると佑木くんが振り向いた。 「ああ何だ杉山か。誰か…追いかけてきたのかと思った」 『面倒なのが追いかけてきたのかと思った』という言葉を飲み込んだのが分かって、俺は少し笑った。 「よかったね、約束守れたんだね」 「うん」  佑木くんがそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。ああ、そっか、本当に大事な人なんだな…。 「杉山には本当に感謝してる。ご家族の方にも、改めてお礼に伺いますって伝えて」  佑木くんはペコっと頭を下げた。 「お礼はいいけど、うちに来てくれるとみんな喜ぶから来て欲しい」  俺は素直にそう伝える。 「ピアノは弾かないけどいいの?」  佑木くんが口元で笑った。本当に進学しないんだな…。勿体ないけど、それは仕方ない。 「いいよ、佑木くんを愛でるだけで嬉しい人たちだから」 「何だよそれ」  佑木くんが声を出して笑った。 「でも俺へのお礼は忘れてないよね」 「忘れてないよ」  もちろんと佑木くんが頷いた。そうこなくっちゃ! 「実は弦楽専攻の友達にギター借りてあるんだ。弦楽専攻の練習室、来て来て!」  ネクタイ選抜が終わったその日で悪いけど、今日を逃したら佑木くんはなかなか捕まらない気がしていた俺は、先手を打ってギターを借りていた。 「用意いいなあ」 「佑木奏司のファンだからね。演奏が聴けるならピアノでもギターでも用意するよ!」
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!