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結果発表後、佑木くんはそそくさとホールを後にした。途中先生たちに「本当にピアノでの進学をしないのか」と聞かれていたけど「しません」と笑って答えて、それ以上はもう聞かせない雰囲気で出て行った。
俺は佑木くんを追いかけて教室に戻った。佑木くんはソッコーで帰る準備をしていた。
「佑木くん!」
俺が呼びかけると佑木くんが振り向いた。
「ああ何だ杉山か。誰か…追いかけてきたのかと思った」
『面倒なのが追いかけてきたのかと思った』という言葉を飲み込んだのが分かって、俺は少し笑った。
「よかったね、約束守れたんだね」
「うん」
佑木くんがそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。ああ、そっか、本当に大事な人なんだな…。
「杉山には本当に感謝してる。ご家族の方にも、改めてお礼に伺いますって伝えて」
佑木くんはペコっと頭を下げた。
「お礼はいいけど、うちに来てくれるとみんな喜ぶから来て欲しい」
俺は素直にそう伝える。
「ピアノは弾かないけどいいの?」
佑木くんが口元で笑った。本当に進学しないんだな…。勿体ないけど、それは仕方ない。
「いいよ、佑木くんを愛でるだけで嬉しい人たちだから」
「何だよそれ」
佑木くんが声を出して笑った。
「でも俺へのお礼は忘れてないよね」
「忘れてないよ」
もちろんと佑木くんが頷いた。そうこなくっちゃ!
「実は弦楽専攻の友達にギター借りてあるんだ。弦楽専攻の練習室、来て来て!」
ネクタイ選抜が終わったその日で悪いけど、今日を逃したら佑木くんはなかなか捕まらない気がしていた俺は、先手を打ってギターを借りていた。
「用意いいなあ」
「佑木奏司のファンだからね。演奏が聴けるならピアノでもギターでも用意するよ!」
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