愛はきっとメイクの下に

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愛はきっとメイクの下に

 下地を丁寧に作って、ファンデーションをやや厚く塗る。  口紅も強めのダークレッド、目の上にやや青めのキラキラマスカラ。つけまつげで思いきり盛って、青いカラーコンタクト。眉毛はやや太目にしっかり書く。  頬には薄紅色のチークを載せて青髪ウィッグを被り、写真を撮ってからも手間がある。加工アプリとフォトショップの両刀使いだ。そこまでやって、初めて私の“変身”は完成するのだから。 「……よし」  歌も歌える、カリスマイラストレーター・マイラ。一枚の写真を“作る”のにかかる時間、二時間オーバー。パソコンの中では、上目使いにこちらを見上げる、ちょっと化粧の濃いクールビューティなお姉さんが微笑んでいた。メイクのばっちり具合もコスプレ並みだし、ウィッグも被っている。でもって、ややぽっちゃり気味の顎や太い首はシャープに細くして、目も大きめに加工しているのだ。完全に、リアルの私とは別物だった。そこにいるのは、現実とはかけ離れた、架空の世界向けに変身した“理想の私”である。  写真をツニッターにアップして、今日もご挨拶。 『おはようみんな~元気?  締切の近い仕事も終わったし、今日はばっちりキメて外に遊びに行こうと思います。  そろそろ寒くなってきたし、新しい冬服も買わないとね!』  写真にそれだけの言葉。それなのに、イイネとリツイート、リプライがつくのは早かった。 『今日も綺麗!』 『マイラさんおはようございます!』 『マスカラ新しくしました?どこのです?』 『姫系より、やっぱりこっちのクールなお姉さん系の方が好きだな~』 『いい冬服見つかるといいですね!今期なら、アジャスターあたりいいのが揃ってますよ!』  それらを見て、唇の端が吊り上るのを自分でも感じていた。自分はみんなに認められている、褒められている、注目されている。承認欲求が満たされていく。 「……ありがと、みんな。大好き」  こっそり液晶の前で呟いて、私は椅子から立ち上がったのだった。
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