白い紫陽花 彼岸花編

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父さんだった。会社の中ではなぜか自分のことを君と呼ぶ。ある程度距離を置いて自分を見たいかららしい。ここまで距離を置かなくてもいいのにと少し寂しい。 「そうです。意外でしたか?」 「いや、研修旅行中もあまり話さない子だったから。でも、真心には懐いている感じだったかな。」 「自分も驚きました。真心から話しかけていたし、真心の下につけることでモデルの仕事も決断したみたいなので。」 「君にはあの子がどう映ったかな?」 「初めてこの子の写真を見たときにうちのモデルにはいないタイプだと思ったので。経歴から見ても真面目で堅物。少し真心に似ているところもあるとは思っていましたが、内面は全く別ですね。真心は自分の中の感情を隠すことが苦手ですが、めいさんは完全に心をロックしてしまっている感じです。まあそれは後々解錠していく予定ですがあの子の本質はおそらく。」 「ああ、もういいよ。なんとなくあの子に似合う服のイメージはできたから。モデルとしての初仕事は愛とだろ?」 「そうです。そのためのデザインをこれからお願いに伺う予定だったのですが。」 「それなら問題ない。これからすぐに取り掛かるよ。できたら君に色付けを頼もうと思うんだ。2人分ね。」 「わかりました。でも、撮影は4ヶ月後になるので、ゆっくりで大丈夫です。自分の腕の状態を見て詳しい日程を決めるので。」 初めての撮影は自分も立ち会うようにしている。カメラマンの人にこの子のイメージを伝えながら撮影するため。写真のイメージは自分に任せられているのでチェックは怠らない。モデルの子の要望にも基本的に答えることにはしている。父さんの考えで『服は人が来て完成するもの。服は人を変える道具でしかない。服自体にそこまでの価値はない。』と言うことを会社全体で大切にしているので服のデザインはそのモデルにあったものにする。だからこそ性格もスタイルも違う様々な人が必要となる。完成した写真も自分がその子のイメージに合わなければ服から作り直す。あくまで服メインではなく人メイン。その人の人柄などが出ていなければ意味はない。だからこそ、自分が現場に必要になる。基本的に新人教育後の月一出勤時の自分の仕事は撮影のことが多い。 「愛との撮影にするのだろ?」 「そうです。いつも通りに愛の力を借りて、現場の緊張感を少し和らげてもらう予定です。自分ではそれはできませんから。」 「愛のことだけど来年うちに入って来たら、君の下につけるから。僕の下には真心がいるし、そろそろ仕事が増えすぎて首が回らなくなってくる頃だと思うから。」 「助かります。それも後々お願いしようとしていたことなので。」 「そうか。そろそろ終わりにするか。今日は家に帰るから。」 そう言うと父さんは自分に背中を向けて進んでいった。 「今日何か食べたいものは?」 「なんでもいいよ。まだ自分では作れないだろ。」 そう笑っていってしまった。 各部署に顔を出して本日の仕事はこれでおしまい。時刻は5時。真心の仕事を終わるまで待つ。30分後には、真心も終わり、真心の運転で帰った。途中スーパーに寄ってもらい、夕飯の買い物をした。家に帰る頃には6時を回っていた。 家に帰ると愛の声が響いた。 「おかえり。」 愛が出迎えてくれた。今朝あった時よりも元気に。 「メッセージ来てなかったけど迷惑かけなかった?」 「心配御無用。初日ながら完璧にこなして来ました。」 言い方が腹たつ。あとで結さんに確認したら、自分が来ている時よりも活気があって良かったと言われた。少し落ち込んだ。
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