白い紫陽花 彼岸花編

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「今日、父さんも帰ってくるから、2人も手伝って。愛、母さんは?」 「部屋で仕事。」 母さんには悪いが少し切り上げてもらうしかない。2人に任せるのは不安でしかない。味噌汁が鉄の味がするのは嫌だ。 「愛、母さん呼びに行って。その間に着替えておくから。」 普段着ないきっちりとしたスーツをできるだけ早く脱ぎたい。息苦しくてたまらない。 愛が呼びに行った母さんだが、寝ていたらしくなかなか起きてくれなかった。結局自分が起こしに行く羽目になった。 「寛、今日のメニューは何?」 今日のメニューはサバの味噌煮。たまたま今日、サバの切り身が安売りしていたので父さんの好きな味噌を使った料理にした。母さんに味噌汁を任せて、料理のできない2人と一緒にサバの味噌煮を作った。生姜と味噌、みりんにお酒、隠し味にちょっとだけチューブのニンニク。ニンニクを入れると味にパンチが出ていい。ちょうど出来上がるときに、父さんが帰って来た。基本的になんでもおいしいと言って食べてくれるので3人の顔はニヤけっぱなしだった。 数日後、日向さんに挨拶も済ませ、自分も花屋に復帰することになり3人での営業が始まった。少し気になるめいさんのことは真心に任せるので心配はない。最初の1ヶ月はほとんど雑用みたいなものしかしないし、何かあったら随時報告してくれることになっている。めいさんの方からもちょくちょくメッセージが来るようになった。その内容は仕事のことではなくほとんどが真心に対することで、直接本人に聞いたらと返信したら、聞けたら自分にはメッセージを送らないと返信があった。個人的にはしっかりとコミュニケーションをとって欲しいところだが真心に聞いても、仕事に関して問題はないらしいのでまあいいか。 今日は日向さんに前々から頼まれていた授業をする日だ。授業すると言っても自由参加なので1人も来ない可能性だってある。小中高と年齢もバラバラなのであまり専門的で知識的なことはできない。後々、分けてもらおうとは思うが愛が慣れるまでは一括りにしてもらうしかない。結さんの許可も要る。難しすぎる内容はひとまず避けるようにしないと。 子どもたちとは何度も顔を合わせているから緊張はない。準備も完璧にしたはず。午後になり、お昼のピークを過ぎた頃、 「じゃあ、行って来ますね。」 結さんと愛にお店を任せて病院の最上階に向かった。今日が土曜日と言うこともあってか初回にしては結構いい人数が集まった。さらに見たことのない顔がちらほら。後ろには保護者の方もいた。その保護者の人の中に紛れて1人よく見たことのある顔も見つけた。 「なんでここにいるんだよ、隼人。」 「いいじゃんか。お見舞いのついでに来てやったんだよ。と言うより最初に俺のこと呼んだのはあんただったろ。」 確かにそんなこと言ったような気はする。ここ数日いろいろと忙しくて忘れていた。隼人の隣には車椅子に乗った女の子がいた。自分は隼人を呼び、耳元でささやく。 「あの子がいつも必ずお見舞いに行く女の子?」 「悪いかよ。」 「いや可愛い子だなってさ。彼女?」 「・・・違わない。」 小さくて聞こえなかったが反応を見る限りそうらしい。うぶな反応が少しうらやましい。 「じゃあ、俺も頑張るから、よく彼女のこと見ておくんだよ。たまに助けてもらったりもするから。よろしくな。」 そう言ってニヤニヤしながら隼人の頭を撫でた。隼人は少し照れているようだが少し頷いていた。予想していなかった人数と保護者の登場も隼人のおかげで少しだけリラックスできた。
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