白い紫陽花 彼岸花編

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「授業の中で納得してしまったところもありますが、わかりました。私たちの子供は今のところ学校に行くことができない子ばかりです。病気が治った時にまず親が心配するのが再発すること、次に学校や社会に出ることです。長く集団に慣れていないことで人との関わり方をあまり学べない。完治したとしても外に出ることを怖がってしまうことが多い。先生にお願いしたかったことはどちらかというと知識ではなく外の世界で使えること、適応できることを教えていただこうと思っていました。」 保護者の意見を聞く限り、おそらくだが自分が授業をすることが最適解なのだと思う。大学時代もそういった方向で授業を作って来た。今はこういったことが必要だとも思っていた。でも実際の教育実習ではその思考から逃げてしまって無難なことをしてしまった。ここに来て改めて自分がやって来たことは間違ってなかったのかなと思い始めた。 「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」 思わず感謝の言葉を述べてしまった。保護者の方々には意味はわからないだろうが、教育に関しての思想に自信をなくしていた自分にとっては感謝しかなかった。 保護者との説明会を終えて、中村先生に一礼し、花屋に戻った。 2回目の授業の日。 前回同様、なかなかの数の人が集まっていた。例の如く隼人もいた。さくらと一緒に。今回から本格的に授業に入っていく。自分が保護者の人に提案した授業の内容は『伝える力』と『想像する力』を持たせること。今日は『想像する力』の授業になる。やることは簡単で、誰にでもできる。 「今日から本格的に授業するわけだけど、必要なものはこっちで用意したから。」 そういうと、徐に鞄の中からスケッチブックとボールペンを1人ずつに渡した。もちろん隼人にも。 「いいのかよ。俺ももらって。」 「どうせ毎回くるだろ。さくらに会いに。だったら、ほぼ強制的に参加することになるからやるよ。」 「なんだよ、いきなりさくら呼びかよ。」 「いきなりじゃないもんなぁ。」 隣にいるさくらに同意を求め、目を合わせて笑い合った。実は3日前、愛と一緒に月に一度の館内の花を交換しに行った時にたまたまさくらと出会した。見た目の通り明るくて話しやすい子だった。時間の都合上、あまり長く話すことはできなかったが隼人という共通の話題もあってすぐに仲良くなった。連絡先も交換した。交換している時に隣にいた愛に「浮気?」とからかわれた。「捕まるわ」と反論するとさくらは笑ってくれた。 「2人の秘密だよね。」 さくらに話しかけると笑顔でうなずいた。隼人は少しムスッとした表情だった。 自分の授業は基本的に答えのない問題しか出さない。答えのある問題なんてつまらないし、この世界は答えのない問題の方が圧倒的に多い。子どもの頃から物事について自然に考えられる癖がつくと、リスクマネジメントも勝手にできるようになる。この授業は初歩の初歩。 「じゃあ、これから問題を出すから、配られたスケッチブックに答えを書いてね。書き方は自由だから、何書いてもいいよ。でもみんなに見せるから見やすいように書いてね。」
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