白い紫陽花 彼岸花編

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真心を骨折した腕で器用におぶって1階のソファーに座らせる。流石に骨折した状態で包丁を持つのは危険なので冷凍保存したご飯を解凍して沸騰したお湯の中に入れ、卵を回し入れて簡単なタマゴ粥を作った。体調の悪い時はただのおかゆより、卵を入れたほうが栄養価が高く、体にいい。あとは、梅干しと少しの塩。簡単なので10分くらいでできた。 「できたよ。自分で食べれる?」 「食べさせてほしい。」 真心は2人の時と、体調が悪い時はいつも以上に大胆になる。いつもだと何も言わずに、他の人から見ればクールでミステリアスな女性に見える。仕事もできるし、行動も早い。だが、そう見えるのは一生懸命で我慢しているだけ。愛がいればお姉ちゃんとして、会社では上司としての役職に忠実に従っているだけ。自分と2人の時は我慢の制限が切れてだいたいこうなる。真心は愛にバレていないと思っているらしいが正直我慢しているのがバレバレのため近い人には気づかれている。頑張って我慢している姿が可愛いと真心の部下の中では癒しの対象になっているらしい。自分が月に一度出勤すると真心の部下から色々と話を聞く。 真心の仕事は父さんのマネイジメントとモデル。うちのブランドの服はほとんどうちの社員がモデルを務める。モデルさんのスケジュールを気にすることないし、内部の人間がやることでコスト削減にもなる。後、世にいるモデルの人はあまりにもスタイル、ルックスが良すぎて服を買うときの参考にならない。一般の会社員が着ることで親近感を持ってもらう。うちのブランドでは最初はモデルとして雇うわけではないが、自分が目をつけた人にだけモデルの仕事も併用して行ってもらっている。もちろんモデルの仕事が増える分、普段の業務は減らして、給料も上げている。真心はスタイルもルックスもいいのでそれには当てはまらないのだが、まあこういう人もいるでしょ。無口でミステリアスな雰囲気があるためかなかなか好評だ。たまに自分が顔を出すと笑顔を見せることがあり、それが撮影現場ではえらく好評で、撮影の邪魔にならないように真心の部下も後ろからスマホで真心のことを撮っている。 茶碗一杯のタマゴ粥をフゥフゥと冷やし、真心の口に運ぶ。体調が悪いにも関わらず、今できる全力の笑顔で自分に応えてくれる。半分ほどを食べ終わった頃に食べ物の匂いを嗅ぎつけた母さんが姿を現した。 「美味しそうね。私も食べたい。」 「だったら作るから少し待ってて。真心、はい。」 少し浮かない顔をしていていた。 「大丈夫だよ。もう自分で食べられる。」 真心はレンゲを奪うと自分で食べ始めた。真心の気持ちを察した自分は真心の頭を撫でたあと、母さんの近くに行った。すると、母さんが小声で、 「なんか邪魔しちゃった?」 「そうだね。真心が人前で甘えられないの知ってるくせに。」 「悪いことしちゃったわね。」 「いいよ。作るからそこに座ってて。」 母さんは少しシュンッとしていた。母さんも真心の性格はわかっているため、少し反省しているのだろう。まあ、食べ物を出せばある程度機嫌が治るので問題ない。真心も家族なんだから気を使うこともないのにとは思うが自分にしか見せない顔があることに少しだけ優越感を感じるところもある。 「できたよ。暑いから気をつけて食べて。」 母さんの分のタマゴ粥を作り終えて、母さんの前に提供する。 「私は食べさせてくれないのね。」 「母さんはそこまで体調悪くないでしょ。自分で食べれる人は食べるの。」
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