白い紫陽花 彼岸花編

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真心は手が好きらしい。手を繋いだり、手のひらに文字を書いたり。自分の近くにいる時は常に触ってくる。大きくて、暖かくて、包まれている感じで安心するらしい。こうして話している最中もずっと触っている。そうしているうちに再び真心はウトウトし始めた。 「眠たくなってきた?今日は午後から病院に行かなきゃいけないからあまり無理しないでね。」 「ギリギリまでこうしてる。もし眠ちゃっても時間までは一緒にいて。」 「わかった。じゃあ後1時間だけね。」 そういうと真心は体も向きを変えて自分の肩に顔をのせた。優しい香りが鼻腔をくすぐる。落ち着く。 1時間はすぐにたってしまい、いつの間にか真心は寝てしまっていた。そのまま真心を布団に優しく寝かせた。自室に戻って、服を着替えた。 母さんに真心のことをお願いし、小雨の中傘をさし病院へ向かった。ゴールデンウィーク中だが病院にはそんなこと関係ない。ゴールデンウィークだからこそ忙しいと日向さんが言っていた。連休にテンションの上がった子供がよく怪我をして運ばれてくるらしい。 病院に着くとある男の子が話しかけて来た。 「お久しぶりです。花屋さんはまだですか?」 この子は黒井隼人君。よく花屋に買いに来てくれる常連さんだ。この病院に同級生の女の子が入院しているらしく学校終わりや週末によくお見舞いに来ている。毎回花屋によって一輪だけ花を買っていく。 「手がこの通りだからね。でも、結さんが来週には再開するって言ってたよ。」 「困るんだよね。早くしてくれないとさ。せっかく便利だったから。」 「ごめんごめん。早く治すよ。」 花屋を開店させてからずっと来てくれているのでかなり仲がいい。年頃の男の子でもあるので、少しからかうにはちょうどいい。しっかりした子なので他の人の迷惑になることはないし、たまに手伝ってくれる。 「今日もお見舞い?」 「そうだよ。せっかくの休みだから長く話せるしね。」 「えらいな。せっかくのゴールデンウィークなのに、遊ばなくていいのか?」 「いいだろ。こっちのほうが楽しいんだよ。」 律儀で真っ直ぐなところもこの子の良いところだ。後、考えていることがよく顔に出るともからかいがいがある。 「そうだ今度からさここの病院で授業することになったんだけどこない?」 「授業なんかできるのかよ。」 「こう見えても大学でちゃんと勉強して教員免許取ってるんだから。」 「でも今はここで働いていると。」 「それは言わないでくれよ。」 そうこう話しているうちに自分の診察する順番になった。隼人君と別れ、彼は女の子の待つ病室にスキップで向かった。 診察が終わり、経過は良好みたいだ。でもまだ無理はしないようにと言うことだった。帰りに日向さんと鉢合わせした。 「寛くん、この後いいかな?」 「少しなら構いません。真心のあまり体調が良くないので早く帰ってあげたいので。」 「そうだね。今日みたいな日は辛いかもね。」 母さんが日向さんによく相談しているからか、日向さんはうちの健康事情にも詳しい。とは言っても、病弱なのは自分と真心くらい。他の3人は少しうるさいくらい元気だ。愛に至っては風邪をひいたところを見たことがないくらいだ。精神的に弱い自分と元々体が少し弱い真心だけがよく病院にお世話になっている。 「10分くらいで済むから良いかな?時間は取らせないよ。」 「わかりました。」 2人で最上階にある医院長室に向かった。途中でいろいろな人から声をかけられた。自分の存在が病院内に浸透していることが少し嬉しかった。まあ、あんな大きな事故起こして入れば、嫌でも耳に入ってくるだろう。
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