白い紫陽花 彼岸花編

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医院長室に入り、出迎えてくれた佐藤さんの不敵な笑顔に少しゾッとした。自分が猫舌で熱いものが飲めないのを知っているくせにぐつぐつ煮えたぎっているようなコーヒーを用意してくれた。嫌がらせなのかな。 「で、話ってなんですか?」 「今度から病院内でしてもらうことの確認と理由だよ。まだ話してなかっただろ。君を結に進めて身近において置きたかった理由だよ。」 「そうですね。あの時はあまり時間がありませんでしたし。」 「これから寛くんにはこの病院で授業をしてもらいたいと思っているんだ。ここには本来学校に通わなきゃいけない子も多いし、この子たちの将来のためにもね。一番は学校っていう雰囲気を少しでも体感してもらいたくってね。学年も年齢も違うけど道徳とか君の得意な分野だったらみんなでまとまって一緒に勉強できるだろ。各教科の勉強は他の医師も積極的に参加させるから。」 「他の教科はおそらくですけど他の先生方にはかないませんよ。自分で言うのもなんですが勉強自体あまり得意ではなかったですし、大学で主に学んでいたのは教え方でしたから。英語や数学なんてもうほとんど残ってません。」 こっちは文系の教育学部であっちは理系の医学部。優劣をつけるわけではないが一般的には医学部の人の方が優秀だという認識がある。医学部はかなり勉強をしなければ入ることすら難しい。教員免許と違って単位を取ればもらえる資格とは違い国家試験もある。勉強と言う面であれば自分はかわないだろう。 「その教え方が大事なんじゃないか。僕たち医者はどちらかと言うと勉強ができた人だからできない人のことをわかってやれない。君はおそらく僕らと一緒なんだろうけどわからない人のこともわかってやれる。君は人に対しての理解が普通じゃないからね。」 「わかりました。高校生レベルはさすがに無理なのでお願いすることになるかもしれませんが。」 「そこは大丈夫だよ。うちにいる子たちは自分で勉強できる子たちだから。君には主に内面的なものをお願いするから。学校の雰囲気作りだけで良いから。そうしても、今のうちに体験させてあげたい子がいてね。」 日向さんの顔が少し悲しげになった。 「うちにね、白血病で入院している子がいてね。実はその子に頼まれたんだ。その子中学校に入ってから学校に行けてなくてね。学校自体好きで成績も優秀で学校に行けなくなった今でも自主的によく勉強している子なんだよ。どうしても叶えてあげたくて君に頼んだんだ。」 話している最中も日向さんはあまり浮かない顔だった。自分的にはもうすでに了承しているのに。表情から読み取るにその子の状態を自分は察した。 「わかりました。でもその子のことは自分には教えないでください。その子ばかり気になってしまうので。学校なら平等に接したいですしね。」 「君のそう言うところは尊敬するよ。でも君ならみたらわかってしまうとは思うけど。とりあえず頼むよ。どうしても叶えてあげたいんだ。」 最後に手を握られて頼まれた。その手の力はかなり強かったが、暖かかった。帰る準備をしていると、 「あら、コーヒー飲まなかったのね。」 「自分が猫舌なのを知っていて、熱いのを出したからですよ。とてもじゃないですがあの温度は飲めません。」 「そうなら今度からアイスコーヒーにするわね。」 「もしそうなったとしても、あなたなら真冬にキンキンに冷えたのを出しそうですけど。」 会話中、終始ニヤニヤしていた佐藤さん。何か楽しんでいるようにも思えたが、自分にとってはいい迷惑なのでできればやめて欲しい。 「随分と佐藤君と仲がいいんだね。」
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