白い紫陽花 彼岸花編

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少しテンションの高い愛を抑えつつ、愛の提案で某世界的キャラクターの某レースゲームをすることになった。愛はゲームの最中、あぐらをかいている自分の足の間に入り、ここは私の特等席と言わんばかりに座っていた。愛は身長が低いので問題なく画面は見えていたが、ゲームも運転も苦手なのと、片手でどうやってやるんだと文句を言いながらも、数時間愛に付き合った。結果、自分は一度も愛に勝てることなくコテンパンにされた。勝ち誇った顔で自分を見ている愛に少しイラッとしたが楽しそうにしているのを見て少し愛おしかった。 体を休めることに徹したゴールデンウィークも終わり、愛は初めて花屋に出る。初日だが自分は出勤しなければならないので一緒にはいけない。心配している自分をよそに、愛はスキップしながら初出勤に向かった。結さんには何かあったら連絡をくださいと、メッセージは送ったが、愛のことだからおそらく送られてくることはないとは思う。 愛のことも心配だがそれよりも心配なのは自分だ。いつもなら完璧に準備をしてから行動するのが自分のスタイルだったが、今回は片腕しか使えないこともあり、どこか準備不足のような気がしてならない。真心の体調がよくなかったこともあり、打ち合わせの時間も少ない。正直不安な要素が満載だ。 出勤の時間になり、真心の運転で会社に向かう。 うちの会社は大通りから少し中に入ったところの静かなところにある。父さんが目立つのが嫌いで、創作は静かなところだからこそ捗るらしいからこう言った立地になった。幸い駅は徒歩10分以内にあるし、少し出れば大通りで飲食店も多々ある。働く環境は悪くはないと思う。 会社につき、久々にあった社員たちと挨拶を交わす。人数的には30人ほどの会社だが、個人個人がかなり優秀なため、仕事の効率も生産性も高い。ここにいる人をほとんど雇ったのが自分であることがちょっとした自慢だ。そこに新しく仲間が増えるので今日は失敗できない。10人ほど入る会議室に新入社員6人は集まっていた。緊張しているのか、かなり静かだった。自分が入室すると目線が自分に集まった。 「採用試験以来だね。そんなに硬くならずに楽にして聞いて欲しいのだけど。そのために社長と真心、愛と一緒に研修旅行に行ってもらったんだけどな。」 真剣に聞いているのと、緊張して静かにしているのは違う。緊張しているということは様々な事柄が頭の中でごちゃごちゃになっていて、話は頭に入ってはこない。だからこそ、うちでは勤務開始を1ヶ月遅らせてでも、緊張感を軽減させるために、トップである社長たちと旅行に行かせている。 「緊張するのも無理ないか。今日が初日みたいなものだからね。僕とは歳の近い人たちばかりだから仲良くして欲しいんだけど。」 自分と同じで大学卒業してまもないか、専門学校を最近卒業した人ばかり。アルバイトとしては働いた経験はあるにしろ、実際に雇われて仕事するのでは、責任の重さが違う。 「真心のことは知っていると思うけど、まずは僕が誰なのか説明しないとね。渡邉寛、22歳。年齢は近いけど一応君たちの上司になるから。」 他にも、真心との関係性や、会社にほとんどこないことなどを説明した。もちろん、あまり踏み込んだことは話さない。最初は驚いた表情もあった。毎年同じような反応をされるので慣れている。まだ今年はいい方だ。昨年までは、自分よりも年上の人がいたためなんとなく気まずかった。 「一通り僕のことも知ってもらったことだし、本題に入るね。まずはプレゼントを配ろうかな。」 そう言って部屋の外にある段ボールを取りに行った。
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