60人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
107
だってそうじゃないか。
母は今こうしてとても幸せそうにしている。
僕といたころよりずっと。
一方の僕はどうだい?
こんなみじめな格好で、何も持っていない。
僕はこの場にいてはいけない、と思い、
とぼとぼと敷地外に出ました。
これからどうしよう。
いっそトラックに飛び出してしまおうか。
いや、店の近くはよくない。
最期まで母に迷惑をかけることになる。
ああ、そうだった。
おばあちゃんのお墓にあいさつに行くんだった。
あっちでおばあちゃんに会いたい。
「すみません。ちょっといいですか?」
急に声をかけられ、ドキリとし、体が固まったまま動けませんでした。
すると声の主はぐるりと僕の前に立ちました。
警察官でした。
警察官は僕の汚いリュックを持っています。
「すみませんが、こちらはあなたのものではないですか?」
警察官はリュックから僕の財布を取り出し、保険証を見せました。
「本田学さんですか?こちら…あなたですよね?」
リュックの中にいあった古びた写真を警察官が僕に見せました。
懐かしい、調理師免許を取ったとき、エミさんがお祝いで店の前で写真を撮ってくれたものだ。この時はまだ僕に笑顔があります。
「W駅付近で起きた事件についてお話をお聞きしたいのですが」
「W駅…」
最初のコメントを投稿しよう!