60人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
105
そこは工場が並ぶ通りで、大きなトラックが何台も行きかっていていました。
こんなところに、と思いながら進むと、
そこの一角だけ空気が違っていました。
白壁に囲まれた庭には青々とした木々が光を受けて輝き、その奥に、大きなガラス窓が印象的な建物があります。
中には色とりどりの花がバケツに入れられ、ブーケを作る女性たちが楽し気にほほ笑んでいました。
木の陰に隠れながら近づくと、「アプラーンドル」の看板と、立て看板に「フラワーアレンジメントレッスン」を書かれていました。
あの女が教えているのだろうか。
あの女にそんな特技があったなんて思えない。
それでもよく、おばあちゃんが生きていたころ、色んなフラワーパークに行った思い出があります。
「学ちゃん、このお花綺麗だね。とてもいい香りがするね」
だから、あの女は花が好きだったんだと思います。
僕は木の陰からじっと様子を伺いました。
ときどき、女性たちの笑い声まで小さく聞こえてきます。
あの女を捨てなければ、僕にもあんな幸せな笑いがあったのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!