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そこは工場が並ぶ通りで、大きなトラックが何台も行きかっていていました。 こんなところに、と思いながら進むと、 そこの一角だけ空気が違っていました。 白壁に囲まれた庭には青々とした木々が光を受けて輝き、その奥に、大きなガラス窓が印象的な建物があります。 中には色とりどりの花がバケツに入れられ、ブーケを作る女性たちが楽し気にほほ笑んでいました。 木の陰に隠れながら近づくと、「アプラーンドル」の看板と、立て看板に「フラワーアレンジメントレッスン」を書かれていました。 あの女が教えているのだろうか。 あの女にそんな特技があったなんて思えない。 それでもよく、おばあちゃんが生きていたころ、色んなフラワーパークに行った思い出があります。 「学ちゃん、このお花綺麗だね。とてもいい香りがするね」 だから、あの女は花が好きだったんだと思います。 僕は木の陰からじっと様子を伺いました。 ときどき、女性たちの笑い声まで小さく聞こえてきます。 あの女を捨てなければ、僕にもあんな幸せな笑いがあったのだろうか。
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