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すると、生徒たちの陰になっていた人物が見えました。
ふわっとしたパーマヘアは適度に明るい茶色で、その女性の肩の上で弾んでいます。
「うん、いい感じ。ここをこうやってねじると、もっといいですよ」
声が聞こえたわけではありませんが、そんなようなことを言ってほほ笑んでいます。
それは、母でした。
僕が最後に見た、口角が下がり、いつも不安げで不満げな顔をした母ではなく、おばあちゃんがいたころの、穏やかで優しい母の顔でした。
僕は一瞬にしてこみ上げてしまった涙に動揺したまま、母を見続けました。
このとめどない涙の意味はなんでしょうか?
ひどい言葉をぶつけるのではなかったのでしょうか?
狼狽して立ち尽くしていると、母がゆっくりとこちらを見ました。
目が合い、僕は息が止まりました。
気づかれた。
どうしたら…。
そんな迷いは無駄で、母は次の瞬間に僕から目をそらしました。
僕だと気づかなかったのか。
気づいたのにそらしたのか。
ああ、どちらでも同じじゃないか。
僕は大きな間違いをしていた。
僕が母を捨てたんじゃない。
僕が母に捨てられていたんだ。
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