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驚きで鼓動が早くなり、全身が波打つのが分かる。
ずっと大樹の血生臭さが鼻にまとわりついて取れない。
どうしてこんなことに。
さっきまであんなに穏やかな気持ちでいたというのに。
こんな女の話など聞かず、とにかく学のもとへ行かないと。
エミに何も答えず、私が再び背中を向けるとエミが包丁を振りかぶってこっちに向かってきた。
刺される!
と自分の顔を腕で覆ったけど、エミは私を刺さずに、階段をのぼり始めた。
「やめて!」
必死になってエミの細い両足を掴むと、エミは唸りながら、足をばたつかせ、
その左足が私の顔にヒットし、私は勢いよく後ろによろける。
それでも二階に行かせるわけにはいかない。
何度蹴られても、エミの足を必死で掴んでいると、
廊下に落ちている大樹のスマホが目に入った。
大樹もエミともみ合ったのだろうか。
この細い女に負けたというの?
大樹がここで争っていることを、子供部屋にいた私は気づかなかったの?
「離せよ!」
「お願いします!二階には行かないでください!何でも言うことを聞きます!」
エミは一旦動きをやめ、そしてしっかりと私を見てから、右足で私の顔を蹴った。痛みで思考が停止する。私、暴力を受けるのは二回目だ。
「じゃあ大樹さんを車に運ぼうか。私、足もつから。あんた頭ね」
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