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私の家は北関東の、いちおう新幹線が止まる駅の近くにある。
住宅地で老人が多いから、夜は人通りもなく静かだ。
リビングの窓から庭に出て、大樹の車のトランクに、死んでいる大樹を運んでも誰にも気づかれないだろう。
「助けて!」
と叫んだら、誰かは通報してくれるかもしれないけど、
家から出て助けにきてくれても、包丁を持った、
すでに一人殺しているエミに老人たちが勝てそうもない。
なにより一番守るべきものは学ちゃん。
今はおとなしくエミのいうことを聞いて、様子を見るしかない。
大樹の脇の下から両手を通し、抱きかかえるようにして持ち上げると、
大樹はまだ温かかった。
本当に死んでしまったんだろうか。
まだ間に合うんじゃないだろうか。
大樹の腹から血の臭いが止めどなく流れて来る。
その臭いを感じるたびに、恐怖で全身の震えが大きくなる。
「ちょっと止まって」
エミは自分の右膝を上げ、その上に大樹の足を乗せるようにして、バランスを取りながら、スキニーデニムのポケットから大樹の車の鍵を取り出した。
ピピッと音を立てて、車のライトが点滅し、トランクの鍵が開く。
エミは息を荒らしながら、「いくよ」と私に声をかけ、力任せに大樹を放り込んだ。
「…はぁ…はぁ」
乱れた呼吸で私は二階の窓を見上げる。真っ暗なその部屋で学は何も知らず、眠っている。早くあの部屋に戻って学の頬に触れたい。
「はい、あんた運転ね」
エミから車の鍵を渡され、呆然としていると、「私、運転免許ないのよ」とエミが続けた。
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