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あなたの長い睫毛は世界で一番美しいとママは思っている。 十一歳になって、身長が百五十センチを超えても、学ちゃんはいつまでもママの宝物。 いつだってママが守ってあげるから、 安心して眠っていいんだよ。 とくに今夜は寒いっていうから、 お布団を上までしっかりあげて暖かくしなくちゃね。 「うわあ!」 照明を消した薄暗い子供部屋で息子の寝顔を見ていると、 それをぶった切るようにして男の悲鳴が聞こえた。 おそらく一階のリビングからだ。 夫、大樹の声だったのか、一瞬過ぎて分からない。 夫にしては帰る時間がいつもより早いはずだし、 玄関を開けた音がしたのか気づかなかった。 でも確実に一階リビングから悲鳴は聞こえた。 私は音を立てぬようにゆっくりと立ち上がり、散らかった物をどけて、 ドアを開けた。 あの悲鳴は気のせいだったのではないかと思えるほど、 耳を澄ましてみても、なにも聞こえない。 些細な音さえも出さぬように、私は素足を階段と平行にして降りていく。 そして照明がついたままのリビングを覗くと、 そこには見知らぬ女の後ろ姿があった。
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