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僕は家を出てから暫く街道沿いを歩き、
時々仕事をしながらゴツイ城壁沿いにある詰め所まで来た。
そこにいる、ゴツイ男達に挨拶をする。
「お疲れ様です」
普通の人ならきっと声を掛けようとは思わない怖くて厳つい人達である。
しかし、そんな見た目とは裏腹に、
強い責任感を持ち、なんなら正義感を持っているまである人達だ。
「おう、来たか魔術師どのぉ~」
おどけた調子で返すイカつい彼等は、この城塞都市を守る兵士達なのである。
彼等は僕に対してとても気さくだ。
「僕はただの『魔法使い』です。そーゆーの性格悪いと思いますよ」
「ははっ。君は魔法が使えるっていうのに、随分と腰が低いから、ついついからかいたくなるんだよなぁ」
「ああ。普通魔法を売りにしている様な奴は、やたらプライドばかりが高かったりするからな」
二人の兵士はカラカラと笑いながら話すが、知らない人が見れば、モヤシっこが怖い冒険者に絡まれてるようにしか見えないと思う。
「まぁ別にいいですけどね。ただ数分後にはここの石碑の炎が消えてるかもしれませんけどねぇ~」
そんな冗談をいいながら、僕は仕事に取り掛った。
体に内在している魔力を掌に集中して、目の前にある石碑に手を翳(かざ)す。
そして呪文の詠唱をした。
すると石碑のサイドについている魔法器は淡い光りを放ち初め、先端に炎が宿る。
「おおぉぉー。何時見ても見事な炎だな」
「ああ、彼の炎は何となく柔らかくて、親しみやすいよ」
二人は誤魔化す様に、僕が宿した炎を見て、そんな感想を洩らした。
「仲良くしてくれるのはありがたいですけど、曲がりなりにも『魔』を操る者としてはどうなんですかねぇ」
最近感じるモヤモヤのせいで愚痴がでてしまった。
「親しみやすい方が絶対いいだろ」
「なるほど確かに! 説得力が違いますね」
「どーゆー意味だよ。でもよ、庶民派だってのは人気者の大事な資質だぜ?」
別に僕も、親しみ易さからイジられてるわけで、街で会ったりしても気さくに話しかけてくれる彼等が嫌いじゃないし、特に腹が立つわけでもない。
ただ、魔術師や魔導士と呼ばれるのは少々バツが悪い。
今日は特に。
普通は強力な魔術師や優秀な魔導士は畏れられたり、尊敬されているからだ。
「そうだといいですけど」
そして、そもそも僕はどちらを名乗る事も許されていない。
彼等もそれを分かってやっているから、単純なイジりではあると解かってはいる。
でも、魔術師にも魔導士にも、なれる可能性が極めて低い僕にはちょっと気になるのだ。
「で今、全体のどれぐらい付けて来たんだ?」
「いやー、数を考えると気が滅入るので数えてませんよ」
「ハハハ、違いない」
僕はこの城塞都市の石碑に炎を宿して周る、『火付け師』だ。
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