中間地点 **

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「シャワー、浴びる?」  夜とはいえ、数分歩いただけでもうっすらと汗ばんでいる。深く考えずに、紅平の問いに頷きかけた瞬間、強く抱きしめられた。 「今日も、一緒がいい」  明滅する花火の光が、照明の消えた部屋で重なる二人の姿を照らし出した。  洗面所のドアからそっと顔をのぞかせると、ベッドの上で動かぬ人一人分の膨らみを捉えた。薄手の布団にくるまった姿はさながらファラオか昆虫の(さなぎ)である。ぺたぺたと裸足で近づく丹羽の気配を察していながら、少しも孵化する気配がない。はみ出ている猫っ毛を軽く引っ張ったが、紅平は頑なに布団と一体化している。 「悪かった。素直に謝るから。とりあえず、顔見せろよ」  ぐいぐいと布団を引きはがすと、不機嫌な背中とようやく対面した。詫びるとは思えぬ態度で無遠慮に伸しかかると、シングルベッドがギイッと軋んだ。 「そりゃ、紅平は見た目がいいから裸を見られても平気だろうよ。でも、俺は違うんだ。お前みたいに自信持って堂々と一緒に風呂なんか入れないの」 「……この前は平気だったくせに」  丹羽の下で仰のいた敵は、渋面で反論する。「今日も一緒に風呂に入りたい」――ずいぶんと直截な申し出に、丹羽は大いに迷った――とりあえず、紅平を先に浴室へと追いやり煩悶したのだが、時間がかかりすぎて彼は先に風呂から上がってきたのである。……明らかに不機嫌な顔で。 「この前だって、ぜんぜん平気じゃない。恥ずかしくて死にそうだった。……こうしてる今だって、心臓が爆発しそうだ」  無言で下から伸ばされた手に、頬や髪を撫でられる。仏頂面とは裏腹の手つきで、愛おしむように、優しく。瞼を閉じておとなしく受け入れるが、指先が触れただけで、火照った体は敏感に反応していく。 「あ」  長い腕に抱き寄せられて、彼の胸に落ちた。体の前面が密着し、それこそ互いの鼓動が聞こえてしまいそうである。なんとか肘をついて身を起こすと、鼻先に紅平の顔があった。 「ん」  頭を抱えられるようにして深い口づけを受け入れる。柔らかな、しかし、強引な舌の侵入に、思考などなんの役にも立たない。綺麗な友人の顔は見慣れたものだが、薄く、冷たそうな印象の唇が、こんなにも貪欲に自分を求めるとは思いもしなかった。深く重なった唇から漏れ出る卑猥な音と、髪を撫でる優しい手つきとが妙にアンバランスだと流されながらも感じていた。 「あッ」  不意に胴へと回された腕に、ぐっと引き寄せられた。  お互いがはっきりと形を成しているのが伝わり、思わず身を反らせる。といって、逃げ場はない。地響きに似た花火の打ち上げ音と閃光が、内にくすぶる欲望に呼応する気がした。
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