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「遠い……」
人生で初めて男を受け入れた第一感想はそれだった。
ようやく、半分ほどが体内におさまった状態で、痛みに顔を歪めながらの掠れ声は、すぐ上にいた紅平にもかろうじて届いた。
「『遠い』? ……痛い、じゃなくて?」
「……うん。遠い」
状況にそぐわぬ、きょとんとした顔がかわいい――ふ、と、息をこぼすと、顔の強張りが少しだけ解けた。女性とは体のつくりが違うのだ。正常位だと、どうしても相手と密着できない……と、まさに、身をもって知った次第である。
「もっと……くっつきたい」
散り散りの思考の中、端的に欲求を口にした。背中に当ててくれたクッションも、念入りにほぐしてくれたことも、ずいぶんな時間をかけて挿入してくれたことも……彼のすべてが愛しい。
力なく伸ばした両腕が、不安そうに見下ろす彼の頬に触れた。支えるように返された手が、温もりとためらいを伝えてくる。
「萌、ゆっくり」
「う、ん」
中学時代には少女といっても通じた、か弱く可憐だった友人が、力強く自分を支えることに、今更ながら驚きを隠せない。紅平を跨いで対面すると、念願通りに距離は縮まった。
「…………!!」
無理な態勢を続けていたせいで、弛緩した体はいうことを聞かない。意図せず、咥えていたものを深く呑みこんでしまった。
「あっ……あ……!」
痛みだけに支配されていた体に電流が走る。彼につかまった腕に力がこもり、喉を震わせた小さな声が甘く余韻を残した。寄せられた唇を貪り、彼の髪を指で搔き乱して催促する。結合した部分が熱を持ち、さらなる喜びを求めている。もっと、もっと……焦らすように止まった動きに、体が抗議を上げて軋みそうだ。
「う――」
「う?」
紅平が、唇をすぼめたまま言葉を途切れさせた。しばしの休戦状態の中、彼は決まり悪そうに目を逸らすと、ようやく続きを口にした。
「動いても、いい? ……無理なら、すぐ、やめ――」
いつものブツ切り口調に愛しさが増すが、彼の声を遮るようにキスで封じた。ためらいに揺れる双眸を捉え、余裕などないのに瞳で笑い返す。
「無理じゃない。俺も……欲しい、から」
抱えこまれるようにして再び押し倒されると、ベッドのスプリングが上げた音が、自分の体から発したような錯覚を覚えた。たまらずに喉を反らせて、官能と苦痛の波に耐える。体を組み敷く紅平の腕をつかむ指が深く食いこむ。
「ん、ぁ……っ、ん……爪が――」
「平気。……ぜんぶ、あげる」
荒い息を吐き、頬を紅潮させた彼の男である姿を目の当たりにして、体の奥がさらに疼く。互いに濡れた視線を浴びながら、それでも紅平は可憐に微笑んだ。
「ぜんぶ、あげる」
「……なに?」
「萌が、バス停で俺に言ったでしょ? 『ぜんぶ、俺のものだ』……って」
揺さぶられて、もっとも感度の高い場所を何度も刺激される。じゅぷ、と、耳を塞ぎたくなる音が間を埋めて、丹羽から言葉を奪っていく。
「あげるよ、ぜんぶ。……萌が俺にぜんぶをくれるなら」
不意に動きを止めた彼の下で、びくびくと体がたわむ。白く弾け飛んだ意識を手放すと、二人重なり合うようにしてベッドに身を沈めた。
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