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目覚めた世界は、眩い光に溢れていた。ゆっくりと瞬きをしながら、あの日を思い出す。あの日……。
紅平への想いに気づいたあの夜――。
うつ伏せで微睡む丹羽の髪に、微かな温もりが伝わった。優しく絡む指に瞳を閉じて、夢見心地を覚える。
――ごめん、好きだ。
先にぶつけられた彼の想いに戸惑い、うまく受けとめきれなかった。もっと早く気づいてあげたかったのに……寝返りを打とうとして体に走った痛みは、心身ともに紅平を受け入れた証に思えた。
「……おはよ」
丹羽をのぞきこむ綺麗な顔が僅かに曇る。紅平の手首をつかんで引き寄せると、ほっと表情が和らいだ。
「お前は……起きるの、早すぎ!」
寝起きの曖昧な声で返すと、長い指に頬を撫でられた。もう一度、眠りに誘われそうになりつつも、なんとか身を起こす。
「んん」
伸しかかるように抱きついてきた無口な男を受けとめる。喜んでいる……らしい。二人の間を隔てる薄い布団一枚が腰までズリ落ちるのを手で阻止した。なにせ、こちらは全裸である。
「疲れてないのかよ?」
「ぜんぜん」
「ホント、顔に似合わないっていうか……」
花がほころぶ笑顔を見上げて、おとなしく組み敷かれる。濃厚な一夜を過ごした翌朝の光は、ことのほか眩しい。
「紅平」
呼びかけに身を起こした男に、素朴な疑問をぶつけてみる。
「いつから……俺と、こういうことするの、想像してた?」
瞠若する伽羅色の瞳に容赦なく畳みかける。
「高校くらい?」
「……………」
「大学入ってから?」
「……………萌」
呻くような声とともに、体重がかけられた。笑ってしがみついたが、恋人は真っ赤である。ぎゅっと抱きしめると、応えるように抱擁が返った。
笑い合う日々は、友人だった頃からかけがえのない宝だった。
疲労した体を包む温もりは、恋人となり、初めて知った。
「ぜんぶを求めるなんて……欲張りすぎたな、俺」
丹羽の呟きに体を離した紅平は、朝陽を背にじっと見下ろしていた。
「ぜんぜん」
再びの端的な返答に目を点にしていると、彼はキリッと表情を引き締めた。
「俺は、もっと――もっと、萌を知りたい。……中学の頃からずっと……ずっと、想ってたんだから。まだ、ぜんぜん、足りない」
言葉を切った彼に迷いはない。友人の頃から垣間見てきた強い眼差しに、恋心が秘められていたとは、当時は気づけなかった。
「もっと……」
「うん」
「いまじゃ、ないよな?」
「……………………いまが、いい」
嘘をつけない愚直なところも、友人の頃から好きだった。笑って彼の髪をぐしゃぐしゃに掻き撫でる。ふざけたフリをして猫っ毛に触れていたあの頃――。
恋人として触れた指先には、甘美な温もりが消えることなく、いつまでも残っていた。
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