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「ああ良かった。もしよければ智恵に伝えてくれない? 新車は諦めてもらうけど帰ってきたら仲直りしよう……って」
「わかりました。突然、お電話して失礼しました。どうしてもご主人が今どこにいるのか聞いてくれって智恵さんが言うものだから」
「いえ、全然気にしてないよ。じゃあ失礼」
丁寧に言って電話を切った。
なんだ、智恵のやつ、ちっとも怒っていなかったのか。朝の様子では、もっと腹を立てていると思ったのに。
僕は安堵のため息をつき、冷蔵庫からビールを二本取り出した。
居間のソファに腰かけ、缶を開ける。
どうするべきかな。僕だって智恵に車を買ってやりたいが、そんな余裕はない。
悪いことをしたかな? 彼女が帰ってきたら、ちゃんと謝るべきだろうか。
そんなことをぼんやり考えながら、一本目のビールを飲み干す。
二本目を開けた時、玄関のほうで誰かの気配がした。
智恵が帰ってきたのだろう。
かすかな足音が居間のほうに近づいてくる。
「お帰り……」
そう言いかけた僕は、凍り付いたように動けなくなった。
戸口に現れたのは、妻の智恵ではなかった。
その代わりに見知らぬ若い女が立っていた。
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