かすがのの

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 聖壇と説教台と、ステンドグラス。天井から吊り下がった黄金のキリストの磔刑像と、その背後にかかる巨大なタペストリー。柱に彫られた聖者たちは現代人を静かに見下ろしている。  無宗教と言われる日本人。私も、自分が何かの宗教を信じていると思ったことはない。ドイツ語どころか英語さえ怪しいただの日本人女学生で、人を感心させるようなたいした考えを持っているわけでもない。  だが、信仰の場はこうして今も守られていることに、頭が下がる思いがした。心の中で噛みしめるような小さな感動を覚えた。  正午になると、この大聖堂では鐘が鳴り響く。その重厚な音色も好きだった。  明日には日本へ帰るという日にも私の足は大聖堂へ向いた。使い込まれた木製のベンチを感傷的に撫で、冷たい座面に腰を下ろして、ぼんやりと時間を過ごした。 明日には非日常の旅を終え、つまらない日常に戻ってしまう。そう思えばもったいない気持ちになった。
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