2人が本棚に入れています
本棚に追加
1-1
「ねえ、今どこにいるの?」
電話口からそう言われて私は思わず笑ってしまった。
遺跡調査の為に単身フランスに来てから一週間が経とうとしている。予てより来たいと思い続けていたのだが時間や予算の都合がつかず、今年になってやっと実現することができたのだった。しかし時期は年末も年末で、今日はもう十二月三十一日だ。ホテルへ戻る道すがら町の中を通ったが、年越しに向けて人々は浮足立っていた。
そして日本は、たったいま新年を迎えたそうだ。アスカの話す声の後ろから騒々しいテレビの音が聞こえている。紅白でも見ていたのかと聞いてみれば、点けっぱなしにしてただけよとテレビを切った。ずっと集中して絵を描いていたらしい。アスカが絵を描き始めたのはつい最近だが随分なハマり様だ。なぜ始めたのかは分からない。
「何が可笑しいの? 笑わなくたっていいじゃん」
不機嫌そうにアスカは言った。マリッジブルーのせいかもな、そう思いながら私はホテルにいると告げて、今日の出来事をアスカに話した。
最初のコメントを投稿しよう!