【あの日の夜】(受け視点)

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【あの日の夜】(受け視点)

 久しぶりの合コン。不本意ながら彼氏というものができて、はじめての合コンだ。 「彼女? いないけど」  となりに座ったでかいリボンをつけた女の子が「え~、ホント~?」と聞いてくる。  雑誌の読モになってもおかしくはないような可愛らしさを撒き散らし、辺りにいる男たちの視線を釘づけにしている。  おもしろいのはそんな彼女を見る他の女子の顔が歪なこと。ささいな人間関係も顔に出るらしい。 「ねえ、ねえ、わたしも今、フリーなんだ~」 「あ、でも、彼女はいないけど……」  酒の力もあったからもういいかと腹をくくる。 「彼氏ならいるから」  面食らったような彼女と男どもとは違い、他の女子はくすりと笑った。  たぶん彼女の努力が報われなかったからうれしくて仕方ないんだろう。 「イチヤ、お前、そうだったのかよ?」  男子陣はざわめき立つ。グラスを倒したり、慌てようがおかしくて、 「だからってお前らを彼氏にはしないから安心しろ」  笑い声を立ててやったら、男子陣も笑いはじめた。女子陣も笑うから楽しくなってくる。 「イチヤも笑うんだな」 「いつも笑ってるだろ?」 「んー、そうだけど、何か違うんだよな」 「何かって何だよ?」 「それも彼氏のおかげだったわけか」  そいつはうなずいて一人で納得する。だからいまだにもてないのだ。  女子たちも加わって話が続いたときに、ガンッとテーブルにジョッキが落とされた。  酒も入っているためか顔を上気させて、「おい!」と声を荒げた。 「お前ら平気なのかよ! イチヤに彼氏だぞ? 男同士とか、マジ考えらんねえ」 「まあまあ」  どこの世界にも自分の考え方が正しいと思う人はいて、こいつの意見も悪いことじゃない。 「おれ、帰るわ」  そいつは一回もおれのほうを見ないまま、金だけ置いて出ていった。  雰囲気を悪くして申し訳ないと思っても、カミングアウトしたことは後悔していない。  結局気まずい雰囲気を抱えたまま、合コンはお開きとなった。  男だけの帰り道。別に落ちこんではいなかったが、もてない奴に肩を叩たかれた。 「確かにびっくりしたけど、あいつのことは気にすんなよ」 「ああ」  こいつはだれにでも優しい。優しすぎるから人につけこまれて、傷つく。でも友人としては最高な人間だ。 「じゃあな」 「またな」  別れて、マンションまでの道のりを一人歩く。意外と酔っているみたいで足元がふらつく。  というか、帰りたくない思考が邪魔しているんだろう。 「イチヤさん!」  会いたくなかったのに前方から声が来る。今は正面から見つめたくなくて喉仏の辺りを眺めた。 「おかえり~、合コンどうだった?」  こいつにすすめられて合コンに行った。  嫌がるおれに「久しぶりに女の子をお持ち帰りしちゃったりしてね」なんてふざけたことを言うから、キレて合コンに行ったのだ。  散々な結果になったが一つだけ気付いたことがある。 「よかったよ、(途中まで)すごくおもしろかったし、浮気するお前の気持ちがわかった。女の子って可愛いもんな」 「え、ええ!?」  余裕ぶって合コンをすすめたくせに、焦った顔を見ると落ち着いた。 「でもま、今はお前だけで手いっぱいだから浮気なんてしねえよ」  歩いているうちに指をからみとられ、手をつなぐ。顔が近づいてくる。白い息が合わさり、短くキスをする。 「早く帰ろうよ、イチヤさん」 「ああ」 「それで二人であったまろうね、ねー」  くっつけてきた頭を遠ざけて「いい気になんな」と拳でこづく。 「いってー」  痛むこいつを眺めながらほころんだ頬に手で触れて気付く。何だかあいつらの言った“何か”がわかった気がする。  ムカつくし、認めたくないけど、「ほら」と苦し紛れに自分からこいつの手を引いた。 〈おわり〉
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