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2・3 魔女の呪い
「『容赦なく殺す』」
セシリオの言葉を繰り返す。
そういえば旅立つ前に説明を受けたとき、魔女のその言葉も聞いた。そのときは自分が同行することに焦っていて深く考えなかったが……。
「魔女はそんなに気性が激しいヤツなのか?」
俺はリリアナに尋ねた。
「さあ。私が会ったのはあの日が初めてだったし、最初の印象は『可愛らしい』だったのよね」
バルセロ兄妹もうなずく。
「俺たちが聞いていた噂もそんな感じだった。『《永遠の魔女》というからどんなに怖いのかと思っていたら、気がいいし可愛い』って。実際、見た目は可愛かったし。でも激昂した彼女は恐ろしかった」
「髪がバチバチ鳴って逆立ったのよ」
「怒りで魔力が沸騰したのかしら」とエデナ。
ベルノルトがうぅむと唸る。
「僕たちは会ったことがないからなあ。だけど国王夫妻の願いを叶え、パーティーの招待も受けてくれた」
「人嫌いで有名なのに」とリリアナが続けた。
《永遠の魔女》はいつから存在しているのか誰も知らず、また彼女は人嫌いのため原始の森の奥深くにひとりきりで住んでいて誰も会ったことがないという伝説の魔女だ。
伝説すぎて、本当は存在していないのではと噂されていたくらいだ。
その魔女の元を王妃が自ら訪ね、願いを叶えてほしいと頼んだ。
その願いは男児出産だった。
それを知ったとき俺は、リリアナがいるのに今さら王子なんて必要ないだろと腹が立ったが、とりあえずそれは置いておく。
魔女は自ら原始の森を抜けてきた王妃に感激し、彼女が御子を授かるようあらゆる魔法を駆使したそうだ。その甲斐あって王妃は一週間ほど前に珠のような王子を出産。
大喜びをした国王夫妻は王子誕生を祝う内々のパーティーを催し、恩人である魔女も招待した。
その会場で事件は起きた。大臣のひとりが不用意な言葉で魔女を激昂させてしまったのだ。
「でも《永遠の魔女》が子供の姿だとは予想外だったな」
ダフネが言う。
そうなのだ。世間には《永遠》という呼び名や伝説から、老婆のイメージが定着していたのだが、実際の魔女は十歳くらいの女の子の姿をしているらしい。
事前に子供の姿と聞いていた大臣も、あまりに愛らしい魔女がやって来たものだから、
「おや、こんなお嬢さんだったのか」
と、言ってしまったらしい。
大臣をよく知るリリアナは、絶対に悪気があってのことではないと断言をする。
だけどその言葉は魔女の逆鱗に触れてしまったのだった。
「もしかするとだが」と俺はエデナを見る。「魔女はいっときの感情で呪いをかけて『殺す』とも言ったけど、冷静になった今は後悔しているとか」
「だから攻撃の手を緩めているの?」とリリアナ。
「兄さんらしい、優しい発想だ」ベルノルトが微笑む。
「国のすべての大人を呪えるような、強大な魔女だ!」とはセシリオ。「大臣は弁明の機会すら与えられなかった!」
「人嫌いになるのは、人にイヤなことをされたからだよ。長く森に引きこもっていたのなら、それだけ傷は深いんだ」とライアン。
「でも私はアルノルトさんの意見に賛成したいです」
エデナがそう言い終えたとき、突然ライアンが中腰になって身構えた。
視線を前方に固定したまま片手を俺の前に出し、言った。
「俺たち、囲まれてるよ」
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