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1・3 王女と仲間たち、プラス俺
王女がいるのに命の危険がある旅を、たった七人でしているのには訳がある。一週間ほど前のこと、国中の大人が呪いにより石化してしまったのだ。他国の人間でも、我が国に一歩入った途端に石になるらしい。しかも子供には大人にならない呪いが掛けられているという。
もちろん国中大混乱。政治や経済のストップなんて可愛いもので、その日食べるものが入手できない、材料があっても料理ができなくてナマで食べるしかないなんてことが多くの家庭で発生。生きるか死ぬかの大問題だ。そして小さな子供たちは親がいないと言って泣き叫ぶ。
この状況で唯一幸いだったのが、『大人』の基準が十八歳以上らしいこと。おかげで我が国が誇る素晴らしき王女、十七歳のリリアナは無事だった。
彼女はつい一週間前まで国王夫妻のたったひとりの子供で、いずれ王位を継ぐ身だった。だから帝王学は完璧に身につけており、しかも魔法と剣技にも優れている。
彼女はすぐに混乱を納めるための指示を出し、己が知る最も優秀な者たちにその任に当たらせた。そしてリリアナ自身は彼女が『その分野で我が国のトップレベル』と考えている者たちを供に選び、呪いをかけた《永遠の魔女》に会いに行くことにしたのだった。
供は五人。まずは魔法のトップ、俺の双子の弟ベルノルト・クラッセン。伯爵家次男の十七歳。その実力は、通っている魔法学園で文句無しの……二番だ。一番はリリアナだから。だがリリアナが常人をはるかに越えてしまっているだけで、ベルノルトだって大魔法使いになれる力がある。
次に剣術のトップ、セシリオとダフネのバルセロ兄妹。彼らは騎士見習いで城勤めをしている。兄が俺たちと同い年の十七歳で妹が十六歳。めちゃくちゃに強いけど、リリアナには負けるらしい。
頭脳のトップは大賢者の弟子、エデナ・ヴァズ十四歳。師から世界のあらゆることを学んでいる最中とのことだが、多分記憶容量も吸収力も普通の人間の百倍くらいあるのだろう。俺からしたら天才のベルノルトですら完敗するほどの知識を持っている。
ライアンは特別枠。戦闘能力に優れているだけでなく、恐らく魔女の住む森では彼の存在が必要になる。ちなみに彼は六歳だ。といっても魔獣と人とでは年齢の取り方に違いがあるらしい。
そして枠外の俺。俺は平々凡々。魔法は使えるけど一般レベル。頭も普通。どんなに努力をしても、抜きん出られない。実家は貴族だけど何の特徴もない没個性の伯爵家。
その俺がなぜ一行に加わっているのかといえば、ひとえにライアンのせいだ。
今の世の中魔獣は絶滅寸前で、人間とは異なる地域でひっそり暮らしている。だというのにライアンは人間社会にやって来た。俺を手助けするためだそうだ。
そして、ーーここが重要だーー、ライアンは俺の言うことしか聞かないし、俺から離れない。
だから俺は、『その分野のトップレベル』ではないのに、この一行に加えられた。
俺に出来ることは何もない。むしろ怪物の襲撃に遭えば足を引っ張ってしまう、お荷物だ。
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