1・1 丸焼きにされる危機

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1・1 丸焼きにされる危機

 何でこうなった!  背中に気絶している王女を背負い死に物狂いで走り、双頭のサラマンダーから逃げる。トカゲのような姿のヤツは、動きは遅めだが口から火を吹きやがる。  俺は中身も容姿も平々凡々。山無し谷無しのありきたりの人生を送るだろうと思っていたのに、何でこんな目に遭っているんだ! 「ライアン! ライアン!」  必死にどこにいるか分からない友の名前を叫ぶ。  もうダメだ。息が切れて足はもつれる。倒れる。サラマンダーに火炙りにされる。こんがり焼けた俺(と王女)。  くそっ、そんなのイヤだ! 絶対に! 「助けろ、ライアン!」  次の瞬間。岩影から黒い影が飛び出して、俺の脇を駆け抜けた。  ライアンだ。  ほっとした途端に足がもつれて顔から地面に突っ込んだ。  痛い。泣きそうだ。  背後で、怪物の咆哮が上がる。  そっちに顔だけ動かすと、サラマンダーが逃げて行くのが見えた。双方の頭から青い血が吹き出している。ヤツと俺の間には眉間に角を持つ巨大な狼。 「……ライアン」  呼び掛けると彼は振り向いた。 「遅いんだよ。今度こそ死ぬかと思った」  ライアンの姿が光に包まれる。しばしの後にそれは消え、狼から人タイプに変身した彼が現れた。俺たちと変わらない年頃の外見をしているが、頭の上部には大きなけも耳がついている。 「いいじゃん、間に合ったんだから」と、ライアン。すぐに目を見開く。「って、アルノルト、顔がマズイぞ。平凡な顔が個性的になってる」 「分かってるわ! こちとら痛くて泣きそうなんだよ!」 「自らの顔を犠牲にしても王女を守る。カッコいいぜ!」  ぐっと親指を立てるライアン。  くそっ、このアホ魔獣め。 「……とりあえず彼女を頼む」 「おお、そうだな」  ライアンが俺の背に乗ったままの王女リリアナを抱き上げる。  ようやく重しがなくなった俺は半身を起こし、あぐらをかいた。そこに、 「兄さん!」と慌てて駆けて来たのは双子の弟のベルノルト。「大丈夫か!……って酷い顔だな!」 「ああ、泣きそうだよ。リリアナを診たあと、治癒魔法を頼む」 「了解」  ベルノルトが来れば、顔のケガは治ったも同然だ。俺と違って中身も容姿も非凡なヤツなのだ。  ふうと息をついて目の前のライアンを見る。 「ま、助かった。ありがとな」  えへっと照れるライアン。 「そりゃアルノルトの役に立つのが俺の使命だからな」  いや待て。平凡な人生を送るはずの俺が、こんなおかしな目に遭っているのは全部ライアンのせいだ。  なのに本人にまったく自覚がないのが、腹が立つ。  はあっと息をついて、『褒めて!』とばかりに俺のそばにしゃがみこんだライアンの頭をぐしゃぐしゃっと撫でてやった。半分獣だからか、こいつは乱暴めの手つきが好きなのだ。嬉しそうに目を細めるライアン。可愛いヤツではある。  俺の人生を一変させた張本人ではあるけれど。
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