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しばらく意識を飛ばしていたらしい。
気が付いた時には体操マットの上に横たえられ、ワイシャツの胸元をはだけていた。そして、鼻息荒く興奮した複数の視線。
強すぎる快感を得た後の、気だるい身体。
──ああ、まだ終わってなかったんだ……。
本人に意識が無くても勝手に身体は感じるらしい。胸の先をまさぐる指と舌の感触。ゾワリゾワリとそこを漂う快感の気配にゾッとしながら、鈍い感覚と意識がゆっくりと戻ってくるのを待つ。
いっそのこと快感なんて感じなければいいのに。嫌なだけなら、気持ち悪いだけならこんなに自分のことまで嫌いにならずに済んだのに。
涙を流すと相手が喜ぶのは解っていた。
だけどこんな時はどうしても大好きな旺実を思わずにはいられない。『ナツ』って呼んで抱き締めて欲しい。
今触れている手が旺実のものなら、喜んで身を委ねるのに──。
「……ナツ、ナツ? 気付いたの?」
呼び掛けられ、揺さぶられてハッと気づく。
「大丈夫か? ……泣いてる?」
胸を這っていた手が頬を支え不安そうにのぞき込まれて心配される。
あれ、旺実じゃない……。
ぼんやりと考えて、だんだんと状況を思い出した。
そうだ、あれは終わった事じゃないか。今は高校時代じゃないし相手はアイツらじゃない。今は……、金のためにやんないといけないんだった。
完全に覚醒して周りを見回した。
体育館倉庫を模した檻の中。まだ観客たちはなぶるような視線を投げかけている。そして、隣にはアイツでも旺実でもなく、ウミがいた。
……チッ。ウミが『ナツ』なんて何度も呼ぶから嫌な事思い出したじゃねーか。
あの頃、高校時代は大好きだった旺実と、大嫌いだったアイツらの思い出で占められている。どうせなら旺実の、旺実との幸せだった時を思い出せれば良かったのに『ナツ』と呼んでくれたのは旺実だったのに──。
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