序章  封印された歴史

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 ……びゅう、と一陣の風が吹き去った。 「父上、こちらでしたか」  背後から呼びかけてきた声に応じて、男は振り返る。  風格ある佇まい、威厳に満ちた眼差し……だが、そこに息子の姿を認めて、僅かに頬がゆるんだ。 「やはり、ここに……?」 「うむ」  男は短く答えて、再び景色に向き直った。 「流石は古豪の出城。地の利、人の利にかなっている……それ以上に……」 「未来永劫、潰えることなく血統が続く、という託宣でございますが……」 「信じぬか?」 「いえ……」 「一豪族に過ぎなかった我が一族が、この眺め、全ての地を治めることを、あの女は先見しておった」 「……ここに城をかまえるは、容易ではないと……」 「うむ。あやつらも指をくわえて見てはおらぬだろう。だが……」 「……?」 「『ののう』の託宣が全て当たるとは思っておらん。そもそも、託宣を聞いた限りでは解せぬことばかり。……京で、何やら異変が起きるようじゃ。『永楽銭が燃える』とな」 「!」 「何が起きるかは、分からぬ。確固たる足場を押さえねばならん」 「……御意に」
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