ep2.ブラウンの紙袋

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ep2.ブラウンの紙袋

 空に広がる灰色の雲から白い塊が降ってきている。昼食を食べ終えて、オフィスの窓から景色を見ていると、背後から声がかかった。振り返ると、きっちりと結ばれたネクタイの結び目が目に入る。見上げると、同期の晴見がサラサラした前髪をうっとうしそうにかきあげていた。 「久住、今日の夜、付き合えよ」  手には、高級そうに見える落ち着いたブラウンの紙袋を持っている。チョコレートが入っているのだろう。 「いいけど、お前は予定ないの?それ、本命チョコだろ」 「ん、ああ。まあ。これはいいんだよ。で、お前は予定あんのかよ」  晴見の後ろでせわしなく動くパートさんが目に入る。すべてのデスクに公平にチョコレートの箱を置いていっていた。 「いや、ない」 「じゃ、決まりな。店は俺が見つけとく」  背中越しに手を振りながら、自分の部署へと戻っていく晴見を見つめる。  俺は自分のデスクへ行き、鞄を開けて中をのぞく。金色のリボンがかかった青い箱が入っている。昨日、会社の最寄り駅近くにあるケーキ屋で買ったチョコレートだ。  3年前、入社式で隣に座った晴見に一目ぼれした。一見冷たそうに見える切れ長の目は吸い込まれそうなほどで、笑うとなくなってしまうのがかわいらしかった。話すようになって、2人とも小説好きということで意気投合したものの、男同士だからと、俺は晴見と会社の中で一番親しい友人というポジションを陣取ることで満足してきた。  鞄に手を入れて、青い箱に触れる。  年々、高級そうなチョコレートを晴見が受け取っているのを見るのがつらくなってきた。スイーツの店に詳しくないから自信はないけれど、晴見が持っている紙袋は毎年同じ店のもののようだった。同じ女性から渡されていると思うのが自然な推測だろう。  3年の片思いにケリをつけるつもりだったから、晴見から誘ってもらって渡りに船だった。
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