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晴見がどんな表情をしているか気になって、上目づかいに顔を見た。晴見の顔が赤い。アルコールのせいかと思ったが、たしか酒には強かったはずだ。俺の目線に気づいたのか横を向いて、ブラウンの紙袋をテーブルの上に出した。
「興味あるどころの話じゃない。俺、今日、やっとお前にチョコレート渡せると思ってたのに、渡す前に幸せそうな顔を見せられたら玉砕確定じゃん」
そう言いながら、ブラウンの高級そうな紙袋をテーブル越しに俺の胸元へ押し付けてくる。
「お前にやる。返事はいいよ。わかったから。あーあ、3年かかってやっと渡せたのに。やけ酒くらい付き合えよ」
俺は押し付けられた紙袋を手に取り、しばらくの間、無言で見つめた。どこかのテーブルで酔っぱらいの何度目かの乾杯が行われたようだ。大衆居酒屋より落ち着いた雰囲気の店に似つかない大きな声が響く。
晴見はジョッキに半分くらい残っていたビールを一気に飲んで、店員にジェスチャーでお代わりを頼んでいた。
店員が晴見の前に新しいジョッキをおき、空になったそれを引いた。第三者がテーブルに来たことで、俺は我に返り、バッグに突っ込んだままの手を出した。同時に、ジョッキをあおろうとする晴見を止める。
「ちょ、ちょっと待て。お前が見たチョコレートはこれだよ」
金色のリボンがかかった青い箱を晴見の目の前に近づける。ジョッキを口元に持っていっていた晴見は口を開けたまま、固まっている。何度も瞬きをして、言葉にならない声を漏らしている。
片手で突き出していた箱を両手に持ち直して、晴見の目を見る。
「俺がチョコを渡したかったのは晴見だよ」
晴見はジョッキをおいて、両手で箱を受け取ってくれる。その目は瞬きが止まらないらしい。
「マジかよ。俺にだったのか……」
「そうだよ。ってか、お前、やっと俺にチョコ渡せるって言ったよな」
普段冷たそうに見える晴見の顔が、照れた少年のような表情になる。
「ああ、去年も一昨年もお前に渡そうと思って会社に持ってきては、渡せなくて自分で食べてた」
俺は片手を額に当てて苦笑いする。バレンタインデーのたびに、妬いていた相手は俺だったのか。
「恋人として付き合ってくれるよな」
手を差し出すと、晴見は真っ赤な顔をして手を握り返してくれた。
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