近衛 颯

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近衛 颯

近衛に連れられて、さっきの着替えした部屋とは比べ物にならないほど広い部屋に出る。 入った入口から見て、長いテーブルの左側の4箇所に既に食器の準備が整っている。 そのまま近衛にエスコートされ、右側に座らされる。 ああ、こういう場は慣れているはずなのに、交際を親に報告するのとか流石に初めてだし、身分隠してるし、仮だし、不安要素てんこ盛りすぎて緊張してきた。 俺が固く息を吐いていると、近衛に手をきゅっと握られる。暖かい手に包まれて、冷えた指先にじんわりと温度が移った。 「大丈夫。何かあっても俺が対応する。だからお前は心配するな。」 「………近衛だけが頼りなんだ、本当に頼んだぞ。」 「っ、はぁ、ずるいなぁ綾ちゃんは。勿論、任せておけ。あと俺のことは、近衛じゃなくて颯さん、だろ?」 「いや…それは、流石に…。」 「俺たちはだろ?」 「わ、分かったから…。手ももういい、大丈夫だから離してくれ。」 と言ったはずなのに、何故か指と指の間にするりと近衛の指を入れて握られてしまった。 これではいわゆる恋人繋ぎと言うやつになってしまう。 「〜〜!近衛!」 「綾ちゃん。」 「………………そ、颯、さ、」 名前呼びなんて友達同士ならいくらでもいえるのに、なんだかそういう雰囲気でもなくて、思わず耳がじわじわと熱くなるのを感じる。 つっかえながらも名前を言おうとした瞬間、パタッと扉が開いた。 「あら、既にいちゃついているなんて、随分と仲がいいんですね。」 「っ!!!こ、これは、その!」 「あはは、勿論。俺はこいつを愛してるからな。」 入ってきてそうそう、俺たちを見て言った女性に、近衛はそう言うと見せつけるように俺の手を持ち上げて指先にキスを落とした。
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