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「なぁ、近衛?」
そのまま俺はポンポンと軽く背中を叩いて、取り敢えず近衛の顔を見ようと離れようとすると、それを拒むようにさらに強く抱きしめられる。
そしてそのまま俺の首筋に埋めるように顔を押し付けてきた。
「断らんで、綾チャン。」
「駄々こねか?」
「せやで。せやから、綾チャンはいつものように、俺のわがままを受けいれて?」
いや別にいつも受け入れてる訳では無いからな?お前の押しが強すぎて逃げ道がないだけで。
とは、流石に今は言えない。
「……どうして突然?」
「突然では無いやろ?俺は何時でも綾チャンに恋してたで。」
「そうか?でも今の近衛は、なんだかいつもより必死に見える。」
「そらそうやわ。綾チャンに嘘でも『愛してる』なんて言われて、昂ってるんや。それをいつか、俺の知らんやつが綾チャンから言われるのは、我慢ならんと思った。…思ってしまったんよ。」
「………。」
そう言われても、困ったことに俺は今近衛に抱いてる気持ちがなんなのかよく分からない。
好きだと言われて、抱きしめられて、不思議にも不快には思っていないけれど、でもこれが恋なのかは分からない。
「今は好きじゃなくてもええ。いつか好きにさせるから。」
「近衛。」
「……綾チャン。」
もう一度強くグッと近衛の肩を押した。
今度こそ特に抵抗せずに体が離れた。
そしてそのままそっと顔を上げると、泣きそうな赤い目と合う。
その珍しい顔に思わずクスッと笑った。
「なんて目をしてるんだ、お前は。まるで捨てられた子犬みたいだぞ。」
「当たり前やねん。俺がこんなに頼み込んで、いい返事せんやつなんて綾チャンくらいやで?」
「そうか、それは悪かったな。」
俺の返事に、全然悪いと思ってへんやろ?と返した近衛は、ようやく少し落ち着いたようだった。その声色の明るさに、俺は少しほっとしながら喋る。
「俺はな、嬉しかったよ。お前にそう言って貰えるのは。」
「っ、なら、」
「でも、俺がお前のことをそういう意味で好きかどうか、分からないんだ。」
ごめんなさい。そう言って頭を下げる。
近衛は目をさ迷わせたあと、眉を下げて言った。
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