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その日の夜、俺は兄上にいつものように電話をしていた。
「つ、つまり綾斗は今日男の家に上がり込んだのか……?!」
「あ、兄上、その言い方は誤解です。ただ食事を、」
「だけど、綾斗が今まで友達の家に行ったことはなかったじゃないか!!」
流石に、本当は彼氏のフリして両親に挨拶に行った。なんて言ったら兄上が倒れてしまいそうだったから誤魔化したのだが…。
あまり反応が思わしくない。
「兄上、あのですね、」
「綾斗?そうやって兄上の言葉を遮ろうとしてくるのは、なにか隠し事をしているときだろう?何を隠しているんだ?」
「いえ、そんな事は…。」
「綾斗〜!兄上にも言えない様なことをされてしまったのか?!やはりそのケダモノ学園において置くのは心配だ…!!」
何故兄上はこんなにも俺の事を熟知しているんだ…。
一切誤魔化せそうにない雰囲気に焦っている間も、あちらから『風間!風間!』と風間を呼ぶ声が聞こえる。また俺が学園に乗り込むだの駄々を捏ねているのだろう。
兄上がいつも苦労をかけているな、風間…。
それから風間に宥められたのか、兄上はこほんと咳払いをすると言った。
「いいか?兄様は常々言っているがな、綾斗は、可愛いんだ。いつどこで誰が惚れるかわからん。重々警戒するんだぞ!あまり人に懐いちゃダメだ!言いくるめられないようにするんだぞ?それから、」
「兄上!分かりましたから。心配してくれてるんですよね?俺は嬉しいですよ。しかし俺だって大きくなりました、そこまで心配されるようなことは、」
「だから心配なのだ!綾斗は背が高いから襲われないだろうという油断があるからな。それ故に咄嗟な出来事にとても弱い。そこを突かれでもしてあんなことやこんなことをされたらと思うと…!」
そう言って情けない声を出した兄上に、俺は乾いた笑いを零す。
正直、兄上が言っていることも一理、どころか二里もありそうなのが嫌だ。
確かに俺は不意打ちには弱い。咄嗟になにかアクションを起こされると思考が停止してしまう。
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