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理事長室
生徒会室を出て、俺の後ろを付いてきていた榊原が隣に並ぶ。
「わざわざお礼だなんて、律儀ですね。そんな所も綾斗のいい所なんでしょうけれど。」
「そうか?当然のことだろ。」
「ふふ、そうですか。」
それから少し黙り込んだまま廊下を歩いていく。
榊原は、俺に距離を詰めようとする気配もない。とてもさっきまで腰を抱こうとしてたやつとは思えないな。
因みに、理事長室はこの棟にはない。
職員室などがある所の最上階だ。
ふかふかの廊下を歩いていると、榊原がふいに呟いた。
「……好きな人が、もし、別の人を好きになったら、貴方はどうしますか?」
「恋愛相談か?俺にするのはやめた方がいい。悪いが力になることは、」
「綾斗だから聞いているのです。貴方の意見が聞きたくて。」
「……そうだな。俺なら多分、好きになって貰えるように足掻いてしまうかもしれない。」
何とか振り向かせられるように、縋ってしまうかもしれない。
そう言うと、榊原はミルクティーのような瞳をパシパシと瞬かせた。
「意外です。貴方の事だから、その方の幸せを願って潔く身を引くと思いました。」
「はは、俺の事を聖人かなんかだと思ってるのか?多分だが、無理だろうな。だってそいつのことが好きでたまらないんだろう?なら、気が済むまで追いかけ回しちゃうだろうな。」
あいにく、自分の気持ちを押し殺して我慢するのは性にあわないから。
前世だと、そもそも人を好きになることは無かった。美人な人を見るとドキドキするけど、そんな苦しくなるくらい人を好きになることがなかったから。だからこれは想像だけど。
「あとはそうだな、これでも九条家の生まれだから物で釣ろうとするかもな?」
「ふふ、それは似合いませんね。それに貴方、そういう事しないタイプですよね。」
「そうか?」
「ええ。でも相手が物でも釣れなかったらどうするんですか?」
「そうしたら困ったな、他に張り合える所があるだろうか。あぁ、背の高さではちょっとやそっとじゃ負けないかもしれない。」
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