理事長室

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他にあることと言えば、兄上がイケメンなことぐらいだろうか?本当に、自分だけだと武器にできるものが少なすぎるなぁと考えていると、榊原がクスクスと笑いだした。 「貴方って人は。もっと沢山いい所もあるのに、どうしてそう見当違いな事を言うのですか?」 「事実だが。」 「そうでしょうか?少なくとも私はそれだけが貴方の魅力では無いと思いますよ。」 「榊原はお世辞が上手いな。」 「事実ですよ。」 そっくりそのまま返された返事に、俺は少し榊原を見つめたあと、そうか、といった。 今更名を伏せているのも不思議だが、もしかして谷塚と上手くいっていないのだろうか。 言葉通りの意味を受け取るなら、谷塚に好きな人が出来たってことか? それともセクハラに嫌気がさしたのかもしれない。だからあれほど控えろと言ったのに。 「そいつがお前を差し置いて好きになる奴って、どんな奴なんだろうな。」 そう言うと、榊原はじっと俺を見つめたあと、正面に視線を戻したあと言った。 「それはもう、私より素敵な人ですよ。」 その眩しそうな顔に、俺はん?と首をひねる。 「あまり悔しそうじゃないな。」 「え?」 「なんでか、榊原の表情が嬉しそうに見えた。まあ俺の気の所為かもしれないが。」 好きな人を奪ったやつの事を語るにしては、やけに表情が清々しい気もする。 気の所為だと言われたらそれまでだが、それで片付けてしまうにはあまりに優しい表情だった。
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